使わなければ話にならない「接触要素」(その2):CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(13)(4/4 ページ)
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第13回は、前回に引き続き「接触要素」について取り上げる。
フレーム構造物について
以前お届けした連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」では、装置剛性を上げると振動変位を低減できることを紹介しました。振動を伴う機械を、フレーム構造物で設計する場合を考えます。図16に接触部を摩擦あり接触とした場合と、固着とした場合の変形図を示します。
変形量に8倍の違いが生じました。図16右図は、接触部に強力な接着剤を付けた場合に相当します。通常は接着剤を使わないので図16左図の状態となります。もし、接触部を固着として解析をして、変形量(剛性)がこれくらいだからヨシとした場合、実際はその8倍の変形が発生します。振動変位は機械の剛性が高いほど小さくなります。固着の接触要素を使った場合は、設計段階で高めの剛性値を見積もることになり、設計段階の振動予測量は小さめの値となります。しかし、これは危険側の見積もりであって、このまま機械を製作すると剛性は低め、振動変位は大きめとなり、振動問題につながります。
図16は、筆者が説明したいことを分かりやすく表現するために、極端に違いが出る例としましたが、固着の接触が危険側の見積もりとなることに変わりありません。応力だけでなく、振動問題でも接触要素は必要になります。
接触要素を使ったときの要素サイズ
連載第5回で「円弧部の要素サイズは2分割でOKで、メッシュスタディは不要」と述べました。しかし、接触要素を使った場合には、要素サイズの細かさに注意を払う必要があります。
図17に示したU形溶接ののど部の第一主応力を有限要素法で求めてみましょう。参考までに溶接記号を書いておきました。
図18に、第一主応力分布を示します。溶接ビードの応力を見たいので、溶接ビードの要素サイズを細かくしています。これでいいのか調べてみましょう。
溶接ビードの要素サイズは1[mm]だったので、板の方の溶接ビードに接する面の要素サイズも1[mm]にして解析しました。図19に第一主応力分布を示します。う〜ん……。少し応力が違うようです。
図20に、要素分割図を示します。A部に注目すると、板側の要素1つに溶接ビード側の11個の要素が接しています。「1対11」ですね。B部に注目すると、要素は「1対1」で接しています。今回の例は固着の接触要素でしたが、接する面の要素を「1対1」に近づけると解析精度が向上します。
これが摩擦あり接触の場合だと、接する面の要素を「1対1」に近づけると収束までの繰り返し計算数がかなり少なくなります。場合によっては収束しないところが収束するようになります。筆者は、接する面の要素を「1対1」に近づけることが重要だと考えています。
以上、接触要素について説明しました。接触要素は敬遠されがちですが、その必要性をご理解いただけたでしょうか。次回は、本連載の2つ目の本丸である「ボルトの疲労」の解説に入ります。お楽しみに! (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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