フローで考える音振動のモデリング(その2) 〜振動問題、音振動連成問題に適用する〜:1Dモデリングの勘所(35)(3/3 ページ)
「1Dモデリング」に関する連載。連載第35回では「フローで考える音振動のモデリング(その2)」と題し、振動問題、音振動連成問題に適用する際の定式化の方法などについて解説する。
音振動連成問題:解析例
前節の式を用いて、Modelicaでテキスト表記すると以下のようになる(リスト2)。ここでは、部屋はいずれも1m立方、板は1m四方、板の内部損失係数は0.002、板厚は0.002m、周波数は1000Hzとした。また、参考文献[2]に従って、結合損失係数(透過率および放射率含む)の計算式もリスト2内に表記している。そのため、プログラム行数が多くなっている。
model energyAcousticPlateAcoustic import Modelica.Constants.pi; Real C1 “internal loss factor of acoustic field 1”; Real C2 “internal loss factor of plate”; Real C3 “internal loss factor of acoustic field 3”; Real E1 “energy of acoustic field 1”; Real E2 “energy of plate”; Real E3 “energy of acoustic field 3”; Real omg “target angular frequency”; Real ita1 “internal loss factor of acoustic field 1”; Real ita3 “internal loss factor of acoustic field 3”; Real ita12 “coupling loss factor from field1 to plate”; Real ita21 “coupling loss factor from plate to field1”; Real ita23 “coupling loss factor from plate to field3”; Real ita32 “coupling loss factor from field3 to plate”; Real ita13 “coupling loss factor from field 1 to 3” ; Real ita31 “coupling loss factor from field 3 to 1”; Real tau “transmission coefficient”; Real x “parameter of transmission coefficient” ; Real Z “acoustic impedance”; Real sig “emissivity” ; Real sig1 “part 1 of emissivity”; Real sig2 “part 2 of emissivity”; Real M “mass”; Real N1 “mode numbers of field 1” ; Real N2 “mode numbers of plate”; Real N3 “mode numbers of field 3” ; Real k “function of plate thickness”; Real ga11 “sub-part of emissivity”; Real ga “critical frequency ratio”; Real beta “sub-part of emissivity”; Real ramc “sub-part of emissivity”; Real omgc “critical angular frequency”; Real freqc “critical frequency by Hz”; Real CC1 “part of elastic wave speed”; Real CC2 “elastic wave speed”; Real Alf “function of frequency”; Real Pd1 “internal loss power at field 1”; Real Pd2 “internal loss power at plate”; Real Pd3 “internal loss power at field 3”; Real P12 “power from field 1 to plate”; Real P23 “power pate to field 3”; Real P13 “power from field 1 to 3”; parameter Real P1=1 “input power to field 1”; parameter Real P2=0 “input power to plkate”; parameter Real P3=0 “input power to field 3”; parameter Real ita2=0.002 “internal loss coefficient of plate”; parameter Real C=340 “sound speed”; parameter Real S=1 “coupling area”; parameter Real V=1 “volume of field”; parameter Real A=1 “ area of plate”; parameter Real L=4 “perimeter of plate”; parameter Real freq=1000 “target frequency by Hz”; parameter Real ro=1.293 “density of air”; parameter Real rom=7830 “density of plate”; parameter Real h=0.002 “thickness of plate”; parameter Real nyu=0.28 “Poisson’s ratio of plate”; parameter Real E=2.1e11 “Young’s moduls of plate”; equation P1=Pd1+P13+P12; P2=Pd2-P12+P23; P3=Pd3-P13-P23; C1=omg*ita1; C2=omg*ita2; C3=omg*ita3; ita1=C*S*Alf/(4*V*omg); ita3=C*S*Alf/(4*V*omg); omg=2*pi*freq; Alf=1.8e-4*freq^0.5; Pd1=C1*E1; Pd2=C2*E2; Pd3=C3*E3; P12=omg*(ita12*E1-ita21*E2); P23=omg*(ita23*E2-ita32*E3); P13=omg*(ita13*E1-ita31*E3); ita13=C*S*tau/(4*omg*V); ita31=C*S*tau/(4*omg*V); ita21=Z*S*sig/(omg*M); ita23=Z*S*sig/(omg*M); ita12=ita21*(N2/N1); ita32=ita23*(N2/N3); N2=S*omg/(4*pi*CC2*k); N1=V*omg^3/(6*pi^2*C^3); N3=V*omg^3/(6*pi^2*C^3); k=h/12^0.5; CC2=CC1/(1-nyu^2)^0.5; CC1=(E/rom)^0.5; Z=ro*C; tau=log(1+x^2)/(1+x^2); x=omg*M/(2*Z*S); M=rom*h*A; sig=sig1+sig2; sig1=(2*ga11*ga^2)*(ga/ga11)^0.25/((ga^2-ga11^2)^2+ga11^4)^0.5; sig2=ga^3.5*(ga^3.5+beta)/((ga^3.5-1)^2+beta); ga11=((L^2/(8*S))-1)*(ramc^2/(2*S)); ramc=2*pi*C/omgc; omgc=C^2*(12*(1-nyu^2)*rom/(E*h^2))^0.5; freqc=omgc/(2*pi); beta=1/(0.5*L+(2/S^0.5)*(1/ramc))^0.5; ga=omg/omgc; end energyAcousticPlateAcoustic;
解析結果は図5左図の通りだ。併せて、透過損失(式5)も示す。
図5左図と同じ条件で、対象周波数を5907Hzとしたときの結果を図5右図に示す。これから、音場1から音場3への音の透過損失が大きくなっていることが分かる。これは、入力の周波数が板のコインシデンス周波数(式6)に一致したためである。
音振動連成問題:設計応用
この場合も設計応用はさまざま考えられる。一例として、現設計が、図5右図の条件(入力周波数が5907Hz)になっていると考える。入力周波数は変更できないものとすると、コインシデンス周波数を変更すればよいと考えることができる。そこで、板厚を現状の0.002mから薄くした場合(0.001m)と厚くした場合(0.003m)について解析すると図6となる。
図6左図が板厚0.001m、図6右図が板厚0.003mの場合である。ここから、このケースでは「板を薄くした方がよい」ことが分かる。
前回と今回とで、“フローで考える音振動のモデリング”について説明した。従来の「MCKモデル」による振動モデリングとは異なり、なじみの少ない方法ではあるが、いったん定式化を理解してしまえば、解析は連立方程式を解くだけなので計算負荷も小さい。また、音振動連成問題が解けること、高周波数域まで解析可能なことなど、メリットも大きい。入力を従来のMCKモデルで求め、これを用いて、本手法で振動パワーの動きを観察するといった適用方法も考えられる。
次回から、数回にわたって、機構制御系のモデリングについて考える。 (次回へ続く)
筆者プロフィール:
大富浩一(https://1dcae.jp/profile/)
日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。
- 最新著書:1Dモデリングの方法と事例(日本機械学会)
- 研究会HP:https://1dcae.jp/
- 代表者アドレス:ohtomi@1dcae.jp
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 1Dモデリングの方法にもさまざまなアプローチがある
「1Dモデリング」に関する連載。連載第4回では、本題である1Dモデリングの方法を取り上げる。まず、1Dモデリングの方法には大きく「モデル生成」「低次元化モデリング」「類推モデリング」の3つのアプローチがあることを説明。特に本稿では1Dモデリング固有の考え方としての類推モデリングについて詳しく解説する。 - 0Dモデリングとは? 理論・経験に基づく理論式・経験則が究極の1Dモデリング!?
「1Dモデリング」に関する連載。連載第3回は、理論・経験に基づく理論式・経験則が究極の1Dモデリングであることを、0Dモデリングの定義、3Dモデリングとの関係、幾つかの事例を通して説明する。また、理論・理論式を考えるに当たって重要な“単位”に関して、なぜ単位が必要なのかその経緯も含めて紹介する。 - 1Dモデリングとは? モデリングをさまざまな視点から捉えることで考える
「1Dモデリング」に関する連載。連載第2回は、モデリングをその表現方法から2種類の“3つのモデリング”に分けて考える。次に1Dモデリングが必要となる背景について、1DCAEとMBDという2つの製品開発の考え方を紹介し、これらと1Dモデリングの関係を示す。さらに、リバース1DCAEと1DCAEを通して、より具体的に1Dモデリングのイメージを明らかにする。以上を通して、最後に“1Dモデリングとは”について考察する。 - モデリングとは何か? 設計プロセスと製品設計を通して考える
「1Dモデリング」に関する連載。連載第1回は、いきなり1Dモデリングの話に入るのではなく、そもそもモデリングとは何なのか? について考えることから始めたい。ものづくり(設計)のプロセス、製品そのものを構成する要因を分析することにより、モデリングとは何かを明らかにしていく。 - なぜ今デライトデザインなのか? ものづくりの歴史も振り返りながら考える
「デライトデザイン」について解説する連載。第1回では「なぜ今デライトデザインなのか?」について、ものづくりの変遷を通して考え、これに関する問題提起と、その解決策として“価値づくり”なるものを提案する。この価値を生み出す考え方、手法こそがデライトデザインなのである。 - デライトデザインとは? 3つのデザイン、類似の考え方を通して読み解く
「デライトデザイン」について解説する連載。第2回では、デライトデザインとは? について考える。まず、設計とデザインの違いについて触れ、ユーザーが製品に期待する3つの品質に基づくデザインの関係性にも言及する。さらにデライトデザインを実行する際に参考となる考え方や手法を紹介するとともに、DfXについて説明し、デライトデザインの実践に欠かせない要件を明確にする。