量子コンピュータで仮想発電所の需給調整最適化に挑む:量子コンピュータ(2/2 ページ)
グリッドと電気通信大学の共同提案「仮想発電所受給調整におけるリスクヘッジ型量子古典確率最適化手法の開発」が、新エネルギー・産業技術総合研究所(NEDO)のプロジェクトに採択された。
本プロジェクトの概要
そこで、本プロジェクトではVPPにおける需給の不確実性解消と最適化を目的に、ゲート方式の量子技術を活用した量子古典確率最適化手法の研究開発を行う。これにより、100万通りを超えるVPPのシナリオの生成と、シナリオに対する最適化計算を実現し、エネルギーの受給バランスを効率的に管理する他、リスクを最小限に抑制することを目指す。
具体的には、「VPPの不確実性を量子GANにマッピングする」「量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)を用いてVPPの問題を解く」「量子GANとQAOAの融合」といった3つの研究/開発に挑む。
「VPPの不確実性を量子GANにマッピングする」では、生成AI(人工知能)のベースとなっている生成モデルの1つであるGANを量子回路化した量子GANを活用し、VPPで発生するさまざまなシナリオを生成する。
曽我部氏は「今回は、確率分布生成量子回路と確率分布識別量子回路を作成し、ネットワークで接続されたこれらを用いて量子GANの確率分布の精度を高める。確率分布生成量子回路はVPPの確率分布生成データを創出する。創出された確率分布生成データの整合性は確率分布識別量子回路で判別して、正しい場合は量子GANのインプットデータとし、誤っている場合は確率分布生成量子回路にフィードバックし生成し直す。量子GANは、確率分布生成量子回路で創出した正しい確率分布生成データをインプットデータとして学習し、量子状態の重ね合わせや干渉を利用して、確率分布の精度を向上し、VPPのさまざまなシナリオを生成できるようになる」と述べた。
「QAOAを用いてVPPの問題を解く」では、量子GANが生成したVPPのさまざまなシナリオを用いて、VPPの不確実性をQAOAにマッピングし解消する。「QAOAは、量子コンピュータ上で最適化問題を解くためのアルゴリズムだ。誤り訂正機能が搭載された量子コンピュータ上で、このアルゴリズムにさまざまなシナリオに対する選択肢のデータを入力すると、量子変分原理によりエネルギーを表すEが最小になるようにパラメーターのβとγを何度も更新し最適性を保証する」(曽我部氏)。
VPPのさまざまなシナリオに対する選択肢のデータをQAOAに入力するためには、これらの選択肢を二値変数最適化(QUBO)式に変換する必要がある。しかし、現状は変換する方法が分かっていないため、この取り組みではその方法の特定も行う。
「量子GANとQAOAの融合」では量子GANとQAOAを組み合わせた量子回路を構築する。この量子回路は、VPPのさまざまなシナリオに対する選択肢をQUBO式に変換して、QAOAで計算し、VPPにおける最適な需給調整を導き出す。
この量子回路の開発ステップについては、まずは1世帯におけるVPPの需給調整を最適化するタイプを開発し、次に数世帯、その後に100世帯以上に対応するタイプを開発していく。
量子コンピュータに向けたグリッドの取り組み
グリッドは、2017年に量子アルゴリズムの研究を開始して以降、2018年に量子アルゴリズムに関する論文を発表し、2021年に量子アルゴリズムに関する特許を申請するなど、実績を積み重ねてきた。グリッド 代表取締役社長の曽我部完氏は「2035年前後には誤り訂正(FTQC)機能が量子コンピュータで実用化されると見込まれている。こういった状況を踏まえて、当社は2024年に基礎研究から実際の社会問題への実装を見据えた研究にシフトした。その一環として、本プロジェクトを電気通信大学と共同でスタートした」と話す。
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