鹿島建設が作った不思議なスピーカー ステレオ音源を立体音響にする技術とは:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(33)(3/3 ページ)
クラウドファンディングで爆売れ中のスピーカーがある。建設会社として180年以上の歴史を誇る鹿島建設が開発した立体音響スピーカー「OPSODIS 1」だ。
鹿島建設の名前でスピーカーを出した理由
――マーケティング的なお話も伺いたいんですが。今回鹿島建設の名前そのままで、いわゆるコンシューマースピーカー業界に参入ということになるわけですが、この狙いっていうのはどういうところになるんでしょうか。
村松氏 やっぱり、この技術を発明したのが当社の社員だという誇りもありますし、良い音のスピーカーで立体が楽しめるという理想、OPSODISの理想形を作りたかったんですね。
オーディオメーカーさんに頼むと、彼らの商品群の中のラインアップ上で良いものを作りたいという発想になり、「技術が乗っかれば乗っけるよ」と、設計思想の順位が逆転してしまいます。OPSODISの理想形を作るには、自らやるのが最善だと判断したということですね。
――ある意味、この技術のレファレンスモデルを自ら出したというか、これをお手本にして作ってくださいという思いもあるわけですか。
村松氏 そういう企業さんが現れてくれたら大変光栄です。
――これ、やっぱり実際に聞いてみないことには効果が分からないっていうところがあります。いわゆる試聴や体験をどう展開するのかっていうところがポイントになったと思いますが。
村松氏 われわれも実際に聴いていただくのがベストだと思っていました。それもあり、CCCグループのGREEN FUNDINGさんにグループ総力を上げて担当させていただきます、TSUTAYAの渋谷のビルで展示します、とお話をいただいたことが、クラウドファンディング会社を選ぶ決め手にもなりました。それがなければ、多分製品化に向けてまだくすぶっていました。
――“1”というからには、次は2とか3とかあるのかなと期待もしてしまいますが、今後も鹿島建設の名前でコンシューマー向けのオーディオメーカーとしてやっていくっていう格好になるんですか。
村松氏 実は会社から事業化の許可はまだ得られておりません。クラウドファンディングだけをまず認めていただいているような状況で、これが終わった後の計画はまだ白紙です。
――それもすごいですね。っていうことは、量販店での一般発売も白紙ってことですよね。
村松氏 担当者としてはぜひやりたいんですけれども。ただ一般発売するとしたら、とても今の設定金額では利益が出ないので、余計なコストを一切かけない直販だけならなんとかやれるかな、と考えています。
――そもそもクラウドファンディングでモノを売られるのも、はじめてですよね。
村松氏 建設は基本的に受注産業です。当者も、仕事を受注して予算も決まって、そこから初めてモノを買って建てるという商売を、もう180年もやっている会社です。製造業のように最初にまず材料を買ってきて、 売れるかどうか分からないけれど、まず作るという、そのビジネスモデルを上層部に許可してもらうのは非常にハードルが高かったですね。
――やっぱりカルチャーが違うんですね、そういうのは。
村松氏 でもクラウドファンディングは、言ってみれば受注生産なので、われわれのビジネスモデルに沿った説明がしやすくて、会社の許可も取りやすかったんです。
これを一般発売するとなると、一般的な製造業のやり方を決断してもらわなきゃいけないので、これもまた数段高いハードルが待っていると予感しています。
ですが、クラウドファンディングでこれだけ評価されて、こんなに支援者がいるということを示せれば、実現に向けた非常に強い後押しになります。皆さまどうかご支援、よろしくお願いします。
――今回はこの技術を広く知らしめるという意味で一般の人でも買えるようなものをお作りになりましたけど、技術自体はもっといろんな可能性がありますよね。今後は建設以外にどんなことに使えそうな技術なんでしょうか。
村松氏 基本的には大人数を相手に使うような技術ではないので、少人数向けの用途ですね。人数は少なくとも、立体音響を楽しみたいという方は多くいます。あるいは立体音響にすべきサービスや場所というのもたくさんあります。
まだ具体的な話になってはいないので、詳しくは差し控えさせていただきますけれども、実際にお客さまからもお問い合わせがありますし、試聴後に「ぜひこの分野で使いたい」というお話をいただくこともあります。
一般的にクラウドファンディングは、試験的に売ってみて、売れるようなら一般販売を行うというものが多いが、そもそも一般販売するかどうか決まっていないという製品は珍しい。
筐体のサイズについて言うと、開発側は現在の形でもまだ大きいんじゃないかと心配していらっしゃるようだが、コンシューマーからすればこのぐらいはPC向けサウンドバーでよくあるサイズだ。コンシューマーではむしろ、もっと大型化しても低音がしっかり出た方がいいとか、もっと安く買えた方がいいといった方向性の方が喜ばれるだろう。
とはいえ一般販売もなく、クラウドファンディングでプロジェクトが終わる、となった場合、相当な希少品になってしまうだろう。本稿掲載時点では、2024年12月いっぱいでクラウドファンディングが終了してしまう。支援は欲しいが期限がある、という難しい状況だ。
皆さんが買うかどうかは別として、一度音を聴きに行ってみてはいかがだろうか。記事中にあるように、「SHIBUYA TSUTAYA」の4階で聴けるほか、二子玉川の蔦屋家電1Fでも聴けるそうである。
ステレオソースで十分な立体音響が体験できるOPSODIS 1。ぜひ一般販売につながることを願っている。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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