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お年寄りもはっきり聞こえる“曲面サウンド” 急成長のミライスピーカーの秘密小寺信良が見た革新製品の舞台裏(30)(1/5 ページ)

耳の聞こえづらい高齢者でもしっかり聞こえる特殊な「音」を発生する特許技術を持つスピーカーのメーカーがある。「ミライスピーカー・ホーム」を手掛けるサウンドファンだ。同製品はこれまでに累計20万台を売り上げ、大きな注目を集めている。高齢者からの需要も多いが、そもそもどのような「音」を、どのような機構で発生させているのか。サウンドファンの皆さんにお話を伺った。

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 高齢者はテレビのボリュームがデカくなりがち、という問題は筆者が子供のころからすでに存在していた。だが、日本社会の高齢化が進むにつれて、問題の規模も大きくなっている。それを解消するために、別途スピーカーを追加して高齢者のそばに設置するという手法が取られるようになった。

 ところが同じような方法を取りながら、全く違う仕組みを採用したスピーカーがある。2013年創業のサウンドファンが開発した、独自の曲面振動板スピーカーだ。スピーカーを近くに置かなくても、高齢者にきちんと聞こえる特殊な「音」を発生させる特許技術を搭載した「ミライスピーカー・ホーム」(ホーム)は、2023年10月までで累計約20万台を売り上げた。

【訂正】記事初出時に市場情報を掲載しておりましたが、適切でない形での情報利用であったため、記事該当部分の削除と修正を行いました。

 ミライスピーカーシリーズの秘密は、前面に配置された曲面の振動板にある。この振動板から発生する音は、特に高齢者で耳の聞こえが悪くなった人にもよく聞こえるのだという。この振動板開発の経緯や、高齢者に向けた独自のマーケティング手法などは、メーカーが今後の高齢化社会に対応するための参考になるのではないか。そう思って、サウンドファンの皆さんにお話を伺った。

 今回お話を伺うのは、サウンドファン 取締役 CTO 本部長 研究開発生産本部の田中宏氏、同社 営業 広報PR マーケティング本部の波多江良徳氏、同社 広報PR マーケティング本部 コミュニケーション戦略部の高濱由佳氏だ。

お話を伺った波多江良徳さん(左)、田中宏さん(右)
お話を伺った波多江良徳さん(左)、田中宏さん(右)

蓄音機のラッパの形状に着想を得る

――このスピーカーの開発って、曲がった振動板から発生する「曲面サウンド」をどう使うか、というところから始まったのでは、と思うのですが。この、振動するものに曲面を押し当てると音が大きくなるという現象は、前々から発見されていたものなんですよね。

田中宏氏(田中氏) 以前から物理現象として知られていた内容ではあります。その物理現象により生じた音が、聞こえにお困りの方でもはっきりと聞こえるということを当社が見つけ出して、製品化したという形になります。

――その発見って、きっかけみたいなものがあったんでしょうか?

田中氏 私たちの創業者が、ある大学で音楽療法をしている先生にお話を伺っていた中で、ラッパの形状を持つ、昔のSPレコードを再生する蓄音機の音の方が高齢者はよく聞こえる、音楽を楽しめるということを聞いたんですね。もしかしたらそのラッパの曲面に何か秘密があるんじゃないか、ということで、板を曲げて音を鳴らすスピーカーを自作してみました。

曲面サウンドの追求は「蓄音機の音」から始まった
曲面サウンドの追求は「蓄音機の音」から始まった[クリックして拡大] 出所:サウンドファン

 それを創業者の父に聞かせたところ、補聴器がなくてもテレビの音がしっかり聞こえたという発見がありました。これはもしかしたら人の役に立つのではないかと、ミライスピーカーの開発をスタートさせました。

――蓄音器のラッパの形状と、ミライスピーカーの曲がった板自体が振動して音が鳴るという原理は、どのように関わってくるのでしょう?

田中氏 蓄音機にはレコードの溝の振動を拾う針がありますが、そこにダイヤフラム(振動板)がついていて、その先にホーンがあるという構造になっています。物理的には針先の振動が、ホーンにも伝わっているんですね。筒の中で音を反射させて増幅するというだけでなく、実はそのホーン自体からも振動で音が放射されているということです。

――ホーン自体も振動しているんですか。ハイエンド用のホーンスピーカーなどは、できるだけ重い金属で作って振動しないように作られるものですけど。

田中氏 構造的には同じですね。ダイヤフラムが激しく動いていますから、どうしても反作用でホーン自体を振動させてしまいます。Hi-Fiではそれが歪み成分になってしまうので、ホーン自体が鳴らないようにデッドニングしているのです。私たちのスピーカーはそこを逆手に取り、むしろ積極的に振動を使っているわけです。

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