お年寄りもはっきり聞こえる“曲面サウンド” 急成長のミライスピーカーの秘密:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(30)(2/5 ページ)
耳の聞こえづらい高齢者でもしっかり聞こえる特殊な「音」を発生する特許技術を持つスピーカーのメーカーがある。「ミライスピーカー・ホーム」を手掛けるサウンドファンだ。同製品はこれまでに累計20万台を売り上げ、大きな注目を集めている。高齢者からの需要も多いが、そもそもどのような「音」を、どのような機構で発生させているのか。サウンドファンの皆さんにお話を伺った。
時代の風に乗ったスピーカー
――最初の製品としては、まず法人向けから展開されていますよね。その時の市場性や利用想定はどういうものだったんでしょうか。
田中氏 例えば、飛行場のカウンターでお客さまを呼び出しに使うスピーカーですね。あとは銀行や市役所のように、お客さまを呼ぶことに苦労されている環境での使用を念頭に置いていました。そうしたところで曲面サウンドスピーカーを使っていただくと、音量をそれほど上げなくても音が遠くまで届いてくれるので、大音量でなくともお客さまにメッセージを伝えられます。そのため、まずは公共の場所で最初に使っていただこうと考えていました。
――その当時は、あんまり難聴対策での訴求を念頭に置いていなかったってことですか?
高濱由佳氏(以下、高濱氏) 少し時系列に沿ってお話しさせていただきますと、スピーカーを製品化しようと2013年に創業してから2年後に、「ミライスピーカー・ボクシー」という箱型の製品がやっと完成しました。
もちろん最初は創業者の父が使っていたように、テレビにつなぐことも想定していました。ですが、家庭用にしてはサイズも大きく、価格も10万円以上することから、なかなか家庭に導入するのが難しくなりました。そこで、「聞こえづらさに困っている方向けのスピーカーです」「音のバリアフリーです」という点を前面に押し出して、B2BやB2Cなどと間口を絞らず広く営業活動することになったのです。
ちょうどそのころ、「障害者差別解消法」が施行されたころで、企業が対策をしなければならない、というニーズが生まれました。加えて、先ほど田中が申し上げたように、法人の方々は遠くまでアナウンスを届ける際の困りごとを抱えていました。そこにミライスピーカーというピースがカチャカチャっとはまって、法人向けにどんどんこの箱型のスピーカーを出荷するようになったという経緯があります。
――そうだったんですか。まさにちょうど時代の風に乗ったという。
高濱氏 ミライスピーカー・ボクシーには、お客さまのご希望によっては「障害者差別解消法対応スピーカー」というシールが貼ってあるんです。 ご購入した企業は、こうした対策にしっかり力を入れていることをアピールできます。
――なるほど。とはいえ、初期の製品はブックシェルフ型ぐらいのサイズなんですね。
田中氏 そうです。ポイントとしては、前面に曲面振動板がついていますけど、これは専用のアクチュエータ、いわゆるソレノイドのようなもので動かしています。この振動板では高い音だけがガシャガシャ言っている状態です。側面にはフルレンジのスピーカーが別途入っていて、これはこれで中低域を補助しているという、デュアルスピーカーみたいな構造ですね。そのため、大きいしコストもかかるし、値段も高くなることは避けられませんでした。
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