カルボニル基を保持したままポリウレタンを水素化分解できる触媒を開発:研究開発の最前線
東京大学は、カルボニル基を保持したままポリウレタンを分解できる触媒を開発した。水素分子を用いて分解する水素化分解により、ウレタンから材料として汎用性の高いホルムアミドとアルコールを選択的に得られる。
東京大学は2024年8月9日、カルボニル基を保持したままポリウレタンを分解できる触媒を開発したと発表した。水素分子(H2)を用いて分解する水素化分解により、ウレタンからホルムアミドとアルコールを選択的に得られる。
開発した触媒はリンと窒素を含む配位子とイリジウムで構成され、適切な塩基との組み合わせで、ウレタンに1分子の水素を付加した際に、炭素―窒素結合より炭素―酸素結合を優先的に切断する。これにより、アミンとメタノールにまで分解が進まず、材料として汎用性の高いホルムアミドを取り出すことが可能となった。
また、ポリウレタンに含まれるウレア結合やイソシアヌレート環の分解にこの触媒を用いたところ、カルボニル基を保持した状態での水素化分解に成功。モデル分子による検証では、イソシアネートモノマーとジオールモノマーを組み合わせた一般的なポリウレタンから、ジホルムアミドとジオールを得られることが確認された。
エステルやアミド化合物が混在してもウレタンが優先的に水素化分解され、市販のポリウレタンフォームもリサイクルが容易な化合物に分解できる。
カルボニル基に結合する2つの置換基を酸素と窒素で置き換えたウレタンは、カルボニル化合物の中でも特に安定で反応性が低く、従来の手法では再利用しやすい選択的な分解が困難だった。ポリウレタンは、衣類やベッドのマットレス、自動車のシート、建築用断熱材など幅広い用途に使用されており、廃棄物のケミカルリサイクルへの応用が期待される。
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