電極の銀イオンが溶出せず、連続使用が可能な長寿命小型酸素センサーを開発:研究開発の最前線
東北大学は、連続使用が可能な長寿命小型酸素センサーの開発に成功した。プルシアンブルーを担持した高結晶性グラフェン被覆多孔性シリカ球を用い、電極の銀イオンが溶出せず、センサー性能の低下を防ぐ。
東北大学は2024年8月20日、連続使用が可能な長寿命小型酸素センサーの開発に成功したと発表した。銀イオンが溶出しない新しい電極により、センサー性能の低下を防ぐ。産業技術総合研究所、テクノメディカ、富士シリシア化学、筑波大学との共同研究による成果だ。
小型酸素センサーは、作用極、対極、参照極の3つの電極とこれを覆う電解質、ガス透過膜で構成される。従来は銀塩化銀(Ag/AgCl)参照極から銀イオンが溶出し、作用極上に析出して電流値の変化を引き起こし、短時間で正確な分析ができなくなることが課題だった。
研究グループは、参照極にプルシアンブルー(PB)を担持した高結晶性グラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)を用いることで課題に対応。プリント印刷により粒子を緻密に充填した電極を形成した。参照極に必要な表面積の大きさ、高導電性、溶解度が低い酸化還元反応を示す化学種という特性を備え、従来は5cm程度の大きさであるセンサーを、直径2.5mmまで小型化できる。
酸素分圧90mmHgの水溶液を連続的に流通させた検証では、Ag/AgCl参照極が20時間で約−13ナノAまで電流値が低下したのに対し、PB/G/PSS参照極は、約−8ナノAの安定した電流値を5日間にわたって示した。作用極上への析出物も無く、長期間連続して血中の酸素分圧を測定できる。
今後、血液ガス分析装置に小型酸素センサーを搭載し、特に小児や新生児の医療現場で求められる小型化や必要検体量の微量化ニーズに応える考えだ。
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