何のためにデジタルツインはあるのか、スマートファクトリーの足元を見つめ直す:工場スマート化の今(2/2 ページ)
世界の産業界でIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などを活用した工場スマート化の流れが起きている。その中で何を見つめ直すべきなのか、シーメンス デジタルインダストリーズ 産業機械営業統括部 統括部長 兼 医薬産業事業統括部 部長の濱地康成氏に話を聞いた。
バーチャルファクトリーが必要な理由
MONOist スマートファクトリー化を進める際の課題は何でしょうか。
濱地氏 “スマートファクトリーを作る”という命題を持った人が困っている。スマートファクトリーは作りたいが、そのために何をしたらいいのか分からないからだ。将来、医者になると決めた人は勉強するしかない。何がしたいのか、何をしなければいけないのかが明確になっている場合は困らない。
例えば、今まで注射器を月1万本作っていて、注文があるから今の工場で3年後に月産5万本にすると社長から指示が出たとする。
24時間稼働にするために3直にしたり、生産スピードが倍速の機械を導入したりという話になるだろう。だが、ソリューションを決めるのは最後でいい。月産5万本にするための現状の課題は何かを定義し、本質的に解決できる方法は何なのかを探すのが一番先だ。最初にそこを整理しないと、次のステップに進めない。
濱地氏 BMWは世界各地の工場をバーチャルファクトリー化している。つまり、世界中どこからでも全ての工場のシミュレーションが可能となる。米国や日本、ブラジルにいても同じラインに入ることができる。
もしどこかの工場が新しい装置を入れた場合、そのデータもデジタルで上書きして、常に最新の工場の状態にアップデートされていく。これが、今後のスマートファクトリーの在り方だ。そのためには、共通のIT基盤が張り付けられ、データレイクも1個に統一されている必要がある。
なぜ、このようなバーチャルファクトリーが必要なのか。製造業の人手不足はグローバルの課題だ。働きやすい環境が求められる。バーチャルファクトリーがあれば、日本の優秀なエンジニアが国内だけで仕事をするのではなく、グローバルにコラボレーションできる働き方改革になる。
誰もが働きやすい環境を整え、そういった環境で作られた製品を提供する。正しい投資で、正しく人を雇い、正しいモノづくりを進め、最先端を歩む、そういった“正の循環”を作ろうとしている。
テクノロジーの進化に人間が追い付くのは容易ではない。そこで大事なのは、失敗を許容する文化だ。新しいことに挑戦すれば失敗もある。新しいことなのだから、失敗からしか得られないものがある。結果的に、挑戦した人は、挑戦していない人よりも、早く進むことができる。
現場からの改善に頼った生産性向上だけでなく、AIやIoTなど新しい技術の導入を進めていくことで、最初はやり方は分からないし、効果も小さいかもしれないけど、10年後、20年後の未来の工場には大きく寄与してくるのではないか。
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