無秩序な原子配列だと思われていたガラスに秩序性を発見:研究開発の最前線
東京大学は、新たな可視化手法を用いて、無秩序な原子配列だと思われていた無容器法で合成したガラスが、高い秩序性のある原子配列になっていること発見した。
東京大学は2024年7月25日、無秩序な原子配列だと思われていた無容器法で合成したガラスが、高い秩序性のある原子配列になっていることを発見したと発表した。京都大学、東北大学らと共同で、新たな可視化手法を用いて解明した。
一般的なガラスに含まれる原子は、例外なく緩やかな不規則ネットワーク構造を形成している。これに対して同研究グループは、このような構造を持たない、通常の手法ではガラス化しないような組成でも無容器法を使うことで、超高屈折率ガラス、超高弾性率ガラスなどの高機能ガラスを合成してきた。これまで無容器法で合成したガラスは非常に歪んで乱れた原子配列だと思われてきた。
同研究チームは、無容器法で合成したガラスの中で超高屈折率ガラスとして知られるBaTi2O5ガラスに着目。これまでの研究で同ガラスは、通常のガラスよりも歪んで密に詰まった原子配列だと判明していたが、より詳しい分析を進めたところ、結晶のように高い秩序性のあることが分かった。
今回、新たに開発した原子配列の秩序性を可視化する手法(還元原子配列マップ)を使うことで、同ガラス中のどの原子から見ても、その周り約5オングストロームの範囲にある原子は、最密充填配列に近い位置にいることが分かった。この結果は、BaTi2O5がネットワーク形成物質を持たないにもかかわらずガラス化したのは、最密充填配列から各原子がわずかにずれたことが要因であることを意味する。
このような原子配列は、通常のガラスの不規則ネットワーク構造とは全く異なり、原子配列の秩序度合いという観点では、結晶と一般的なガラスとの中間に位置していると言える。また、無容器法で合成した他の高機能ガラスも同様の原子配列になっていることが判明。これは、通常のガラスとは異なる「高秩序ガラス」とでも呼ぶべき新しい材料群が存在することを意味する。
今回新たに開発した可視化手法により、無秩序なガラスについて原子配列の秩序度という概念の定量化に成功した。無容器法で合成した高機能ガラスの不思議な構造が還元原子配列マップを使うことで、定量的に相互比較し、原子配列と物性の関係性を探索できるようになった。
また定量化できたことで、ガラスの秩序度をどこまで高められるかの予測も可能になる。今後、原子配列の細かい操作により、ガラスの性能向上が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- スーパーコンピュータを活用した新規塗材探索手法を開発、塗材開発を高速化
東京大学は、日本ペイント・インダストリアルコーティングスとの共同研究により、スーパーコンピュータを活用した新規塗材探索手法の開発に成功した。実用的な塗材開発の高速化に役立つことが期待される。 - 次世代コンタクトレンズの基盤技術に関する共同研究を開始
東北大学は、東京大学、メニコンと共同で、2024年4月より「次世代コンタクトレンズ及びコンタクトレンズの流通・製造に関する基盤技術構築」に向けた研究を開始する。 - 電気絶縁性と金属並みの熱伝導率を兼ね備えたゴムシートを開発
東京大学は、電気絶縁性と金属並みの熱伝導率を兼ね備えたゴムシートを開発した。パルス交流電界を用いて、窒化ホウ素フィラーを厚み方向に配向すること成功した。 - 金属を使わないカーボン系材料だけの相補型集積回路を開発、室温で安定動作
東京大学とNTTは、パイクリスタル、東京工業大学とともに、金属元素を一切含まないカーボン系の材料だけを用いて、p型とn型のトランジスタの組み合わせから成る相補型集積回路を開発したと発表した。 - 両面ゲートIGBTのスイッチング損失を最大62%低減、東京大学が新技術開発
東京大学 生産技術研究所は2020年12月7日、ゲート両面の動作タイミングを最適化することなどを通じて、両面ゲートIGBTのスイッチング損失を、片面ゲートIGBTと比較して最大62%低減することに成功したと発表。