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100年以上変わらなかった工法を変える 加速するコンクリート3Dプリンタ開発3Dプリンタの可能性を探る(3/3 ページ)

コンクリート3Dプリンタ開発の現状や本格的な展開に当たっての課題、3Dプリンタ活用の将来像などについて、コンクリート工学が専門で3Dプリンティング技術の研究にも取り組む東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授の石田哲也氏に話を聞いた。

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きめ細かい制御により自動出力

――最新の取り組みを教えてください。

石田氏 内閣府のプロジェクトの戦略イノベーションプログラム(SIP)の「スマートインフラマネジメントの構築」では、産官学が連携してインフラメンテナンスの問題にデータ駆動型で取り組み、建設/管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)を目指している。そのサブ課題「先進的なインフラメンテナンスサイクルの構築」の研究開発責任者としてインフラメンテナンスの自動化/省人化に取り組んでいる。

 その中で、「巻き立て補強」と呼ばれる作業への適用を念頭に、大成建設と協力して3Dプリンタ活用の研究開発を行っている。橋脚の柱の周りに鉄筋を配置し、自動で3Dプリンタにより型枠を作ってからコンクリートを流し込む。鉄筋の周りを自動でロボットアームが動き、きめ細かい制御が可能だ(図6)。

既設鉄筋を回避する柱型枠のプリント技術(内閣府SIPで大成建設による実施)
図6 既設鉄筋を回避する柱型枠のプリント技術(内閣府SIPで大成建設による実施)[クリックで拡大] 提供:石田氏

――メタマテリアルにも取り組まれています。

石田氏 内部構造をデザインするメタマテリアルにより、新たな物性を獲得することができる。例えば、強度や靭性、遮音や耐熱などだ。数値解析を行いながら内部構造を設計する。セメントコンクリート系材料のメタマテリアルは3Dプリンタだからこそ作ることができる。セメントコンクリートの適用を広げるために非常に有効な技術だと考えている。

まだ新しい技術なので検証が必要

――コンクリート3Dプリンタの本格利用に向けてどのような課題がありますか。

石田氏 型枠メインとしては使えるが、出力物の品質、強度や耐久性はまだ使われ始めて時間がたっていないので検証が必要だ。また、工場であれば比較的容易に出力できるが、オンサイトでは温度や湿度が変わっても安定してプリントできる材料が必要で、各大学や企業が挑戦している。

――住宅の建設に使う場合は、建築基準法がネックになっているようです。

石田氏 私もメンバーとして参加した、国交省住宅局などの委員会で議論が行われている。現状の建築基準法は3Dプリンタという新技術が登場する前の縛りになる。建築の構造部材には指定建築材料を使わなければならないが、モルタルは指定建築材料に含まれていない。そのため大臣認定という特別な認定が必要になる。だが、建築物を作るたびに認定を取るのではあまりにも活用の足かせになる。例えば、小規模の建築なら認定がなくても構造材料として使用できるようにしようといった議論が進められている。

――3Dプリンタは今後どのように活用されていくと考えていますか。

石田氏 コンクリートは膨大な量が使われており、全てが3Dプリンタで置き換わることはない。施工には現場打ち込みと、工場で形を作ってから運ぶプレキャストの2通りがある。100年以上変わらなかったこれらの工法に加えて、第3の工法として3Dプリンタが登場したことになる。それぞれの良さを生かしながら、工法の使い分けがなされていくと思う。

 まずは型枠大工の不足といった喫緊の課題に応えることから始まり、もう一歩踏み込んで、アーティスティックな造形やメタマテリアルのような複雑な形状、また力がかかる箇所にだけ材料を配置するトポロジー最適化などに使われていく。用途に応じて使い分けながら、少しずつ適用例が増えていくだろう。

――ありがとうございました。

⇒ 「3Dプリンタの可能性を探る」のバックナンバーはこちら

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