セメント系材料でのメタマテリアル技術確立に向け、産学が共同研究:3Dプリンタニュース
クラボウの化成品事業部と東京大学は、セメント系材料でのメタマテリアル技術を確立するため、共同研究を開始した。造形物の構造性能評価技術やメタマテリアル技術を開発し、造形物の材料が持つ物性の向上や新しい物性の獲得を目指す。
クラボウは2022年7月13日、同社の化成品事業部と東京大学大学院工学系研究科が共同で、3Dプリンティング技術に関する研究に取り組むことを発表した。セメント系材料でのメタマテリアル技術の確立を目指す。
両者は2022年4月に、建設用3Dプリンティング技術の研究、開発に関する共同研究契約を締結しており、同年7月から本格的に取り組みを開始した。共同研究では、建設用3Dプリンタによる造形物の構造性能評価技術の開発や、数値シミュレーションに基づくメタマテリアル技術の開発、実証を実施する。これにより、造形物の材料が持つ物性の向上や、新しい物性の獲得を目指す。
数値シミュレーションに基づく造形物の構造性能評価技術は、力学特性の異方性や耐久性への影響といった3Dコンクリートプリンティングの特性を踏まえて開発する。また、新たな力学特性を有するセメント系メタマテリアルの開発、実証には、非線形構造解析システムとAI(人工知能)を活用する。
こうした取り組みにより、これまでのセメント系材料だけでは得られない物性を持つ新材料の開発や、 内部構造のデザインによって軽量化と強度、靭性の向上を両立させるといった、3Dプリンティング技術の新たな活用が期待できる。
両者は2023年度をめどに、メタマテリアル技術の確立を目指す。2022年は材料と部材実験を計画、実施し、メタマテリアル技術の数値解析をする。2023年以降はメタマテリアル技術の実証実験を予定している。
メタマテリアル技術確立後、クラボウは建築と土木分野に同技術を活用し、ノウハウを蓄積する。そして人手不足や生産性向上といった建設業界の課題解決に取り組みつつ、住宅分野にも同技術を活用していく。東京大学は、メタマテリアル技術を基にセメント系材料の新しい機能、価値を創出し、同技術の社会実装を目指す。
将来的には、建設用3Dプリンタで利用できる、低炭素型のセメント系材料を共同開発していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- コロナ禍で生まれた3Dプリンタ活用の流れが、デジタル製造を加速
コロナ禍で、あらためてその価値が再認識された3Dプリンティング/アディティブマニュファクチャリング。ニューノーマルの時代に向け、部品調達先や生産拠点の分散化の流れが加速していく中、サプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらす存在として、その活用に大きな期待が寄せられている。2021年以降その動きはさらに加速し、産業界におけるデジタル製造の発展を後押ししていくとみられる。 - 3Dプリンタの可能性を引き上げる材料×構造、メカニカル・メタマテリアルに注目
単なる試作やパーツ製作の範囲を超えたさらなる3Dプリンタ活用のためには、「造形方式」「材料」「構造」の3つの進化が不可欠。これら要素が掛け合わさることで、一体どのようなことが実現可能となるのか。本稿では“材料×構造”の視点から、2020年以降で見えてくるであろう景色を想像してみたい。 - いまさら聞けない 3Dプリンタ入門
「3Dプリンタ」とは何ですか? と人にたずねられたとき、あなたは正しく説明できますか。本稿では、今話題の3Dプリンタについて、誕生の歴史から、種類や方式、取り巻く環境、将来性などを分かりやすく解説します。 - 「単なる試作機器や製造設備で終わらせないためには?」――今、求められる3Dプリンタの真価と進化
作られるモノ(対象)のイメージを変えないまま、従来通り、試作機器や製造設備として使っているだけでは、3Dプリンタの可能性はこれ以上広がらない。特に“カタチ”のプリントだけでなく、ITとも連動する“機能”のプリントへ歩みを進めなければ先はない。3Dプリンタブームが落ち着きを見せ、一般消費者も過度な期待から冷静な目で今後の動向を見守っている。こうした現状の中、慶應義塾大学 環境情報学部 准教授の田中浩也氏は、3Dプリンタ/3Dデータの新たな利活用に向けた、次なる取り組みを着々と始めている。 - 3Dプリンティングの未来は明るい、今こそデジタル製造の世界へ踏み出すとき
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、サプライチェーンが断絶し、生産調整や工場の稼働停止、一斉休業を余儀なくされた企業も少なくない。こうした中、サプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらす存在として、あらためて3Dプリンタの価値に注目が集まっている。HP 3Dプリンティング事業 アジア・パシフィックの責任者であるアレックス・ルミエール(Alex Lalumiere)氏と、日本HP 3Dプリンティング事業部 事業部長の秋山仁氏に話を聞いた。 - 絶対に押さえておきたい、3Dプリンタ活用に欠かせない3Dデータ作成のポイント
3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CADやCGツールなど、より手軽に安価に利用できるようになってきたデジタルファブリケーション技術に着目し、本格的な設計業務の中で、これらをどのように活用すべきかを提示する連載。第4回は、3Dプリンタを活用する上で欠かせない「3Dデータ」に着目し、3Dデータ作成の注意点や知っておきたい基礎知識について解説する。