製造業のIoT活用ブームから10年、なぜ中小製造業のIoT導入は進まないのか:あらためて取り組む中小製造業のIoT活用(1)(2/2 ページ)
製造業におけるIoT活用ブームが始まった2015年から10年が経過した現在も、中小製造業のIoT導入はなかなか進んでいない。本連載では、あらためて中小製造業がIoT導入を進められるように、成功事例を基に実践的な手順を紹介していく。第1回は、連載の狙いと全体像について説明する。
2.連載の全体構成
本連載の全体構成は以下のような7回構成を予定しています。今回が第1回ですので、残り6回でIoT導入に向けた実践的な解説を進めていくことになります。図2に示す、中小製造業のIoT導入に向けた体系図もご参照ください。
- 第1回:本連載の全体構成の説明(本記事)
- 第2回:IoT導入成功に向けた進め方
- 第3回:IoTによる製造工程管理の強化
- 第4回:IoTによる設備保全管理の強化
- 第5回:IoTによる品質管理の強化
- 第6回:IoTによるエネルギー管理の強化
- 第7回:IoTによるリサイクル管理の強化
IoT導入を成功に導くには、まず経営トップにデジタル化による工場経営のイメージを正しく理解して頂き、社内組織編制を含めて推進していくことが最も重要になります。日本の中小製造業は、昭和で創業した後、平成で2代目に引き継ぎ、令和で3代目に代替わりしているといったような経営者の移り変わりを経ていることが多いかと思います。
経営者が代替わりしたとしても、中小製造業の現場は昭和の時代の重鎮が現在もけん引しているケースが多く、3代目経営者は名実ともにまだ未熟であることが否めない状況にあります。そのため、3代目経営者がやみくもにデジタル化を推進しようとしても現場の合意が得られず進まないことが多いようです。連載第2回では、このような状況を前提として、IoT導入をうまく進めていくにはどうすればいいのかを解説します。
次に、IoT化を進める際には「卵が先かニワトリが先か」の議論になります。卵が先のアプローチで体系的に工場管理の全てをデジタル化してもシステムを導入するまでに何年もかかりますし、せっかくシステムができても現場が使いこなせず全く新システムが定着せず、今までの慣れたアナログな対応を続けるケースが多いのです。
そのため、ニワトリが先のアプローチで、まず現場にハードルが低く効果が出やすい箇所に対してIoT導入を行い、その効果を現場の方に認識して頂くことが重要です。そのため、連載第3回では、IoT導入によって製造工程管理の強化を行うためのラズパイを利用した生産管理指標(可動率、稼働率、不良率)の可視化手順と管理のポイントについて解説します。
製造工程管理における生産管理指標の可視化で、生産性が向上し不良率が下がるなどの効果が出てくると、中小製造業の経営者と現場のモチベーションが上がってきます。そうすると次のステップへの移行がしやすくなります。次に取り組むのは設備保全管理の強化です。連載第4回では、設備保全管理の強化を行うために、金型治工具の使用状況を可視化して定期メンテナンスの精度向上を図る手順と管理のポイントについて解説します。
設備保全管理の金型治工具の使用状況の可視化で、保全費削減効果や安定稼働につながる効果が出てくると、現場の生産にリズムが出てさらなる現場のモチベーション向上が図れます。ここまで来ると、工場管理にはIoTによる現場データの収集とそのデータの活用が重要であることが、中小製造業の経営者から現場担当者までを含めた共通の認識につながります。そこで、収集/蓄積/可視化のフェーズから1ステップ段階を上げて最適化フェーズに移行していきます。この最適化フェーズで行うのは品質管理の強化です。連載第5回では、品質管理の強化を行うために検査結果、製造条件の収集と分析による品質の最適化を図る手順と管理のポイントについて解説します。
最適化フェーズで品質管理を強化することにより、中小製造業の工場経営に必要な生産管理、設備保全管理、品質管理がIoTによってデジタル化されます。ここまで来ると自社の生産状況は全てデジタルデータで管理されていますので、自社の工場経営に対し社会的な信頼性が高くなります。ここまで一気にデジタル化を図った上で次に取り組むのはエネルギー管理の強化です。連載第6回では、エネルギー管理の強化を行うために電力などのエネルギー情報を設備や製品単位に収集し、CO2排出量の削減や最適化を図るための手順と管理のポイントについて解説します。
エネルギー管理を強化できれば、カーボンニュートラルへの対策が実施できた状態になります。ここまで行ってきたことを愚直に実施できれば、さらに中小製造業の工場経営に与える効果を継続して得られるようになります。最後に取り組むのは、リサイクル管理の強化です。連載第7回では、工場での生産に用いる部材のリサイクルの最適化を図る手順と管理のポイントについて解説します。
今回連載第1回として本連載の全体構成について説明しました。次回は、IoT導入の成功に向けた進め方について解説します。
筆者紹介
株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)
NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、
原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。
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