「日本式」の製造DXを目指す団体設立 SaaS連携で現場に即した柔軟なデジタル化を:製造マネジメントニュース
製造DX協会は組織の立ち上げを発表するとともに、目的や今後の活動について説明を行う記者会見を都内で開催した。
製造DX協会は2024年7月1日、組織の立ち上げを発表するとともに、目的や今後の活動について説明を行う記者会見を都内で開催した。日本の製造業の実態に即したDX(デジタルトランスフォーメーション)の在り方の検討や情報発信などを行う。
独自システムにSaaSをレトロフィット
製造DX協会は「デジタルが当たり前のモノづくりへ」をコンセプトに、国内製造業に適したDXの取り組みを検討し、ベストプラクティスの事例を業界全体で共有することを目指す。この中で強調するのが「日本式製造DX」を検討、確立することの重要性だ。
製造DX協会の代表理事で、エスマット 代表取締役でもある林英俊氏は「欧州などでは、組み上げた生産ラインを外部から導入し、統合基盤システムと連携させることで高い生産効率を実現する形でDXを推進してきた。翻って日本では、生産技術部門が個別の機械設備を購入し、自社に最適な生産ラインを構築してきた。『欧州式製造DX』が製造DXの唯一の手本であるかのような雰囲気があるが、もう少しニュートラルな立場から見ていく必要があるのではないか」と説明する。
具体的には、個別のSaaSプロダクトを製造業各社の独自システムにレトロフィットさせてデータ連携する仕組みを、日本式製造DXの在り方として提案する。実際のSaaS選定などはDXプロジェクトの伴走者が支援することで、全体最適化を進めることを想定する。
一方で、日本式と欧州式は互いに排他的な考え方ではなく、両者を組み合わせたハイブリッド式の製造DXの在り方も考えられる。「どちらが良いということではなく、国内製造業が製造DXを実現することが大切だ。統合システムによる標準化と、SaaSの連携による柔軟性の確保。これらのいいとこどりも可能なはずだ」(林氏)。
製造DX協会の運営メンバーは以下の通り。代表理事の林氏に加えて、理事にはアダコテック 代表取締役 CEOの河邑亮太氏、ALGO ARTI 代表取締役社長の永田健太郎氏、Skillnote 代表取締役の山川隆史氏が就任する。協会運営を支援するエキスパートには、きづきアーキテクト 代表取締役の長島聡氏とNEXT Logistics Japan 会長の下義生氏、ソミックトランスフォーメーション 代表取締役の石川彰吾氏、Monozukuri Ventures CEOの牧野成将氏、オーツー・パートナーズ 代表取締役社長の松本晋一氏が就任する。この他、外部アドバイザーとして、早稲田大学 教授の藤本隆宏氏も参加する。
創設メンバーの募集も開始した。製造業の「協賛会員」とSaaS提供企業の「幇助会員」、個々人で参加する「ゲスト会員」の3カテゴリーで集める。設立初年度は協賛会員と幇助会員で10社ずつ、計20社のメンバーを集める計画だ。
製造DX協会では個別のSaaSの紹介や、日本式製造DXの事例に関する知見やベストプラクティスの共有などを行う。具体的な活動は大きく分けて3つを想定する。1つ目は日本式製造DXに関する年間白書の発行だ。DXに取り組む製造業従事者を主要読者として想定し、日本式製造DXに関するコンセプトの作り込みや、実践事例、SaaSの情報などを掲載する。“教科書”として使用できる内容に仕上げることを目指す。これに基づく政策提言も視野に入れる。
2つ目は協会としての情報発信だ。DXウェビナーなどの開催を視野に入れる。3つ目はDX人材の育成コミュニティーの設置だ。隔月でDX勉強会を開催し、個社の中だけでなく、他企業のDX担当者とつながることで学びや成長につなげられるようにする。
林氏は「製造業でもデジタル技術やツールが当たり前に使われるようにしたい。そのために、デジタルに毎日取り組む人を増やし、助け合える社会にしたい。先人が築いたモノづくりにデジタルを融合させることで、孫の世代まで誇れる日本を作りたい。これが製造DX協会が一番目指していることだ」と語った。
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