抗体糖鎖の自動前処理装置を発売、5〜6時間で24サンプルを前処理可能:研究開発の最前線
島津製作所は、抗体医薬品の開発に役立つ抗体糖鎖自動前処理装置「MUP-3100」を、住友ベークライトは専用の抗体糖鎖調製キット「Auto-EZGlyco mAb-N Kit for SHIMADZU」を2024年7月3日に発売した。
島津製作所と住友ベークライトは2024年7月3日、島津製作所本社(京都市中京区)とオンラインで記者会見を開き、抗体医薬品の開発に役立つ抗体糖鎖自動前処理装置「MUP-3100」と専用の抗体糖鎖調製キット「Auto-EZGlyco mAb-N Kit for SHIMADZU」を同日に発売したと発表した。
糖鎖と抗体医薬品の関係
糖鎖は、ブドウ糖(グルコース)などの単糖が鎖状につながった生体高分子で、人間をを含む生物に普遍的に存在する。タンパク質の大部分には糖鎖が結合しており、糖鎖はタンパク質の構造や機能を制御している。
抗体医薬品は、タンパク質の1種である抗体を利用した医薬品で、がん細胞などの表面の目印となる抗原にピンポイントで作用するため、治療効果が高く副作用が少ないとされる。
一方、細胞の培養条件が変化すると生産物となる抗体医薬品の構造に影響が及ぶ他、特に抗体医薬品に結合している抗体糖鎖は、培地成分や培養条件、時間、培養スケールによって変動する。
抗体医薬品の抗体糖鎖は、医薬品としての特性(薬効、物性、体内動態)や安全性などを左右することから、詳細な抗体糖鎖の構造やパターンを調べることが求められている。そのため、抗体医薬の研究開発、製造プロセスモニタリング、品質管理などで抗体糖鎖の分析が必須となっている。
抗体糖鎖の分析プロセスと前処理の必要性と課題
抗体糖鎖の分析プロセスは、対象サンプルを回収し、分析可能な状態に前処理して、分析装置で測定し、得られた分析データを解析することで糖鎖の構造などを解明する。
前処理とは、対象サンプルを直接分析できない場合に、抽出や濃縮などの処理を行い、分析できるようにする作業で、人手によるろ過や加熱、分注などを伴う。
しかし、前処理では、ピペッターによる正確な分注、サンプル加熱時の正確な時間と温度の管理、手順通りの作業、正しいサンプルの管理が求められる。そのため、医薬品メーカーなどでは前処理自動化のニーズがある。
MUP-3100の概要
こういった状況を踏まえて、島津製作所はMUP-3100を開発した。MUP-3100は、住友ベークライトのAuto-EZGlyco mAb-N Kit for SHIMADZUを用いた抗体糖鎖分析向けの専用装置だ。
同装置は、ピペッターによる分注や遠心分離機への検体搬送など、あらかじめ登録した前処理の手順を、6軸ロボットが行う。従来の手作業を忠実に再現しながら、確実/迅速かつ作業者への負荷なく前処理を行い、安定的な分析結果の提供を支援する。同装置はAuto-EZGlyco mAb-N Kit for SHIMADZUと組み合わせて使用することで、5〜6時間で24サンプルを前処理可能で、1日当たり48サンプルを前処理できる。
加えて、装置内部のカメラが、試薬や消耗品のセット状態や数量を運転開始前に自動でチェックし、セットミスなどヒューマンエラーによる動作停止や処理不良を防ぐ。自動運転中もピペットチップの着脱の状態や検体の搬送状態などをチェックし、不測の事態が発生した場合もリトライ機能により前処理の完了を目指す。録画機能付きカメラも搭載しており、時間をさかのぼっての動画自動切り出し保存機能や、動作ログの保存機能によりトラブル発生時のダウンタイムを減らせる。
さらに、オプションのユーザー管理ソフトウェアを利用することで、アカウントごとに権限を設定して、分析手順の意図しない変更を防げる。併せて、前処理結果レポートを自動で生成/保管することでトレーサビリティー(分析履歴の追跡可能性)を高められる。稼働前にピペッターの分注精度を簡単に確認できる日常点検サポート機能も備えており、分析結果の信頼性を向上できる。
MUP-3100の希望販売価格は3850万円〜(ソフトウェア含む、別途PC/実験机が必要、税別)で、販売目標として発売後1年間で国内外合わせて10台を掲げている。
Auto-EZGlyco mAb-N Kit for SHIMADZUの概要
24サンプルの処理に対応する消耗品/試薬入りのAuto-EZGlyco mAb-N Kit for SHIMADZUは、MUP-3100専用の抗体糖鎖調製キットで、抗体精製カラム上で糖鎖遊離を行う独自の手法により、培養液から直接、抗体糖鎖分析が可能だ。
このキットは、抗体捕捉/精製、糖鎖遊離、蛍光ラベル化の工程を1チューブ内で完了でき、従来は複雑な操作で2日間かかっていた糖鎖の分析を5〜6時間の簡便な操作で行える。
住友ベークライト S-バイオ事業部長の田中速雄氏は「1台のMUP-3100で1年当たり100〜250キットのAuto-EZGlyco mAb-N Kit for SHIMADZUを使用する見通しだ」と語った。
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