モーター性能でMITの記録打破、ルービックキューブ世界最速ロボ開発秘話(後編):三菱電機ギネス世界記録への道(3/3 ページ)
三菱電機の若手メンバーが開発したロボットが「パズルキューブを最速で解くロボット」としてギネス世界記録に認定された。後編では、開発メンバーの証言を交えて世界記録達成までの歩みに迫っていく。
センターではライブ中継、そして運命の瞬間
2回目は無事にキューブの色がそろった。ただ、認定員が確認するまでは記録を更新できたかは分からない。ギネスの認定員がハイスピードカメラの映像を確認し、記録を計測。そして、「パズルキューブを最速で解くロボット」において、0.305秒という新たなギネス世界記録が生まれた。ギネス認定員から世界記録の認定を受け、徳井氏は安堵感(あんど)と確信で満たされたという。
「チーム一丸となって取り組んできたこのプロジェクトが、ついに世界的な認定を受けるという結果に至って達成感、安堵感を感じた。また、私たちが開発したモーターの性能は、自身が深く信じて疑わなかったものであり、その信念が揺るぎないものであったことをこの認定が証明してくれた」(徳井氏)
ちなみに、当日の模様はセンターのメンバーに向けてインターネットでライブ中継され、200人近くが見守っていたという。この挑戦はセンター全体の関心事になっていたのだ。
実際の記録の内訳をみると、装置のボタンを押してスタートし、ビジョンカメラがキューブの色を認識してサーボモーターが動き出すまでに0.049秒、そしてサーボモーターが動いている時間が0.256秒となっている。
米国のマサチューセッツ工科大学が直近で世界記録を出した時は、0.045秒でモーターが動き出していたという。「サーボモーターが動き始めるまでの時間は若干劣っている。それでも、モーターの性能で勝つことができた。もともとの性能の高さに加え、手動チューニングを行うことでさらに性能を引き出した」(徳井氏)。
前編でも触れたが、解法計算などを行うPCの性能を高めれば、それだけで時間短縮は可能だ。それでも、「自社のFA製品で全て構成することにこだわった。産業用PCも処理速度が特別速いわけではない。その中で高速化を突き詰めて、産業用機器でここまで速くすることができた」(徳井氏)。一方で、「まだ本気を出してはいない。市販の製品で全て組んでいるので“ここに開発品を使えばもっと早くなるのでは”という箇所がある」(同氏)と、まだ記録更新の余地はあるそうだ。
若手メンバーの製品に懸ける思いから生まれた今回のプロジェクトは、さまざまなメンバーの力を合わせて大団円を迎えた。
糸瀬氏は挑戦を振り返って「2024年12月にみんなでギネスのルールの読み合わせをした。そこから緊張感が高まって、それ以降は“怒涛(どとう)”だった。非常に濃い時間だった」と話す。一方、三浦氏は「前からこのプロジェクトの存在は知っていて、“すごく面白いことやっているな”と思っていたが、まさか自分が携わるとは思わなかった。短期間だが大きなプロジェクトに参加させてもらい、メカ設計のスキルなどの成長につながった」と語る。
最年長としてメンバーを支えた中上氏は「今携わっている巻線装置の性能をさらに高めて、この先10年、20年と世界一を維持できるようにしていきたい。マネジャーとしては、別のメンバーが今回のような挑戦をしたい時に、支えていけるような体制、組織作りをしていきたい」と述べる。
そして今回のギネス世界記録挑戦の発案者である徳井氏は「今回の経験を糧にして、もっと新しい、革新的なモーターや、それを使った次世代の設備の開発に取り組んでいきたい」と今後に向けた思いを語っている。
次回は特別編として、今回の挑戦を陰ながら応援したコンポーネント製造技術センター センター長のインタビューを送る。
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