組み込み開発の基本の基になるトランジスタの話:今岡通博の俺流!組み込み用語解説(2)(2/2 ページ)
今岡通博氏による、組み込み開発に新しく関わることになった読者に向けた組み込み用語解説の連載コラム。第2回で取り上げるのは「トランジスタ」だ。
トランジスタの歴史と真空管との比較
今さらですが、ここまで紹介してきたトランジスタはバイポーラ型のトランジスタの話です。他にもユニポーラトランジスタもありますが、それは次回以降に取り上げるのでここでは割愛します。
トランジスタは第二次世界大戦後にウィリアム・ショックレーらにより発明されたものです。その後、ノーベル物理学賞も受賞した方々ですが、この発明がすごいのは電子機器の産業構造を根底から変えてしまったことです。
このころからトランジスタは半導体素子といわれるようになりました。筆者が子供のころのテレビやラジオの大半は真空管でしたが、筆者の成長に合わせてそれらがトランジスタに置き換わっていきました。ですので、真空管からトランジスタの転換期を肌で感じているつもりです。街中にある家電販売店の店頭では、ラジオもテレビもオーディオ機器も「ソリッドステート」というキャッチコピーが踊っていたものです。いわゆる真空管ではなく固体素子で構成された機器というわけですが、この言葉に何かその時代の息吹を感じたものです。あのYMOの楽曲にも「Solid State Surviver」がありますが、自身の経験もあっていたく感銘したものです。
真空管に比べて半導体素子であるトランジスタの何が優れているかというと、ともに増幅作用やスイッチング作用があるデバイスなのですが、トランジスタの方が寿命が長く、小型であり、消費電力も少ないといったことが挙げられます。
長寿命
真空管の中にはフィラメントがあり、動作させるためには電極を加熱する必要があります。このフィラメントは白熱電球内にあるフィラメントと同様に、一定の期間を経過すると断線したりします。こうなると真空管は作動しなくなるので、簡単に交換できるようにソケットを介して接続する部品になっています。いわゆる消耗品の扱いだったんですね。それに対してトランジスタは経年変化する箇所がないのでめったに壊れることがなく、ほぼ半永久的に使えます。ですから交換の必要はまれなので、基板にはんだ付けされていることがほとんどです。まさに、トランジスタは、真空管よりも圧倒的に寿命が長いというわけです。
小型
真空管は、ガラスで封じた管球内を真空にして電子が通過する量を調整して増幅作用などの効果を得ます。そのため、電子を放出する電極やそれを受け止める電極は一定以上の大きさが必要であり、小さすぎるとこれらの効果が発揮できなくなります。また、先に示したフィラメントなども封入するので、それなりの大きさになってしまいます。これに対してトランジスタは、シリコンなどの半導体同士の接合や重ね合わせで構成されているので、微細化が可能であり、集積回路であるICでは、数mm角のシリコンの基板上に数百〜数千万個のトランジスタを構成することも可能になりました。
省電力
真空管は、動作に数百Vの電圧が必要であり、フィラメントを加熱するためにそれなりの電力も必要になります。これに対してトランジスタは、数Vの電圧で動作しますし、素子を温める必要もありません。真空管に比べて極めて少ない消費電力で動作させることが可能なのです。
スイッチング素子としての役割
図3は、回路図内におけるトランジスタの表記です。Cの端子はコレクタ、Bの端子はベース、そしてEの端子はエミッタと呼ばれます。IB、IC、IEは、それぞれの端子に流れる電流とその向きを表しています。これはトランジスタの中でもNPN型と呼ばれるものです。
組み込み技術者がトランジスタを用いる場合、スイッチングに用いることが多いのでその使い方についても簡単に説明します。
電流IBを流すと、CからEに向けて電流が流れます。ただし、電流が流れる方向は一定でこのタイプのトランジスタはCからEに向けてしか流れません。この時、IBよりもICの方が大きな値の電流を流すことができます。マイコンの出力端子からの電流では作動させられないデバイスであっても、トランジスタを挟むことによってそれらの制御が可能になります。
おわりに
今回は半導体デバイスの中でも、基本中の基本であるトランジスタを取り上げてみました。本連載の中で、トランジスタを応用した使い方も紹介していきたいと思っています。次回は、「はじめに」のところで名前が出てきた「GPIO」がテーマです。お楽しみに!
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