「金属疲労」についておさらいする:CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(7)(3/3 ページ)
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第7回は「金属疲労のおさらい」的な内容をお届けする。
疲労限度線図
参考文献[4]は、おそらく日本で初めて発表された疲労限度に関する論文だと思います。論文の図をそのまま掲載できないので、実験データをプロットしました。これを図9に示します。平均応力と応力振幅を変えていくつかの疲労試験をして、破断したか/しないかを記録します。そして、横軸を平均応力、縦軸を応力振幅として、実験結果をプロットします。破断したものは●プロット、破断しなかったものは〇プロットです。そうすると、破断するか/しないかの限界線は直線となります。図9のグラフを「疲労限度線図」と呼びます。縦軸切片は平均応力がないときの疲労強度ですが、横軸切片は材料の「真破断力」と一致するところがポイントです。
真破断力について説明します。図10に、引張試験片の試験前後の形状を示します。
引張試験によって試験片は伸びて、破断前にはくびれが発生します。この結果、破断面の直径は元の直径よりも小さくなります。引張強さと真破断力の定義を以下に記します(式1、式2)。
破断面の断面積は初期形状の断面積よりも小さいので、真破断力は引張強さよりかなり大きくなります。
設計の場面では、真破断力ではなく引張強さを横軸切片にすることが多く、これを「修正グッドマン線図」といいます。その他にも疲労限度線図が提案されており、これらを図11に示します。
平均応力が与えられて、これから疲労強度を求めることが多いので、平均応力σmと疲労強度σwの関係式を以下に記します。σyは降伏応力です。
通常は、修正グッドマン線図を使うことになりますが、ボルトの場合を考えると、ボルトの強度区分は12.9などと引張強さの0.9倍が降伏応力となります。ボルトは平均応力が降伏応力の70[%]となるように締結されるので、平均応力はかなり大きくなります。この結果、式4に従うと疲労強度がかなり小さくなります。ボルトの場合は式3か図7を使うことになると思います。
次回は、いよいよ応力集中と疲労強度について取り上げます。お楽しみに! (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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