ソフト人材をどう育て評価するか、デンソーが10年かけて作った制度:車載ソフトウェア
デンソーは「人とくるまのテクノロジー展 2024 横浜」において、ソフトウェア人材の育成制度「SOMRIE」について紹介した。
デンソーは「人とくるまのテクノロジー展 2024 横浜」(2024年5月22〜24日、パシフィコ横浜)において、ソフトウェア人材の育成制度「SOMRIE(ソムリエ)」について紹介した。自動車に関わるソフトウェアは、車内の組み込みソフトウェアにとどまらず、クラウドやサービスなど車外にも広がっている。広い視点で開発をリードできるソフトウェア人材を育てるための制度だ。
これまでのデンソーの人事制度は管理職を目指す前提で業務内容を評価する側面が強く、ソフトウェア開発者としての成長やスキルアップ、技術的な成熟度を考慮した評価基準が定められていなかった。管理職にならないものの、技術者として能力のある人材を評価する制度も十分ではなかった。
また、これまでの人材育成ではデンソー独自のやり方が身に付き、能力が社外では通用しにくいという課題があった。また、転職などで社外から来た人には“カルチャーショック”なところもあったという。そこで、ソフトウェア開発の社外の有識者も交えてソフトウェア人材の育て方を標準化し、社外でも活躍できる人材を増やしたいという狙いがあった。
こうした状況を踏まえたSOMRIE制度では、ソフトウェア開発者が自分の能力を把握して必要な知識を習得、最適な活躍の機会を得て実践スキルを身に付けるサイクルを回すことでレベルアップさせながら、ソフトウェア人材を育成する。
SOMRIE制度とは?
SOMRIE制度では社会価値を生み出す企画力が求められる「ストラテジスト」やシステム開発に携わる「システムアーキテクト」「ソフトウェアアーキテクト」といった役割を設定。それぞれに必要なスキルを7つのレベルと18個のケイパビリティに分けた。クラウド系や組み込みソフトウェアなど、それぞれの領域に特化したケイパビリティも定めている。ソフトウェア開発の外部の有識者にも参加してもらい、レベルごとに身に付けるべきスキルの要件を定義しながらほぼ一からデンソーで作った制度だ。10年がかりの構想で実現した。
SOMRIE制度を受検するソフトウェア開発者は、プロジェクトにアサインしてもらい、自分より上位のレベルにいる「バディー」とともに実践的なスキルを磨きながら上のレベルを目指す。その取り組みを社外のソフトウェア開発の有識者も交えて評価し、認められれば上のレベルに進むことができる。
能力の確立が求められるレベル1〜3に対し、レベル4以上では能力の発揮や伝承が求められる。レベル4に到達するとSOMRIEとして認定され、特別なカードやバッジが贈呈される他、一定以上のスキルを持ったソフトウェア人材として社内外で紹介し、後進のソフトウェア開発者が目指す存在として取り上げる。昇給にもつなげていく予定だ。
レベル4以上になると、社内や社外、ゆくゆくは世界でも第一人者として活動できるよう要求水準が上がる。現時点ではレベル6、7の認定を受けた者はいないという。レベル7は「技術者としてだけでなく、企業の創業者や経営者としても知られるようなイメージだ」(デンソーの説明員)。
管理職とSOMRIEの両方を目指すことができるが、SOMRIEは既存の管理職業務の遂行よりも実際のプロジェクトに入って開発に携わることが期待されている。また、SOMRIE制度の評価は従来の人事制度での評価とは分離されており、既存の人事制度の評価者はSOMRIE制度の評価を行わない。
2030年までに認定者を300人に
SOMRIE制度は2020年7月に導入を開始し、現在までに100人がレベル4以上のSOMRIEとして認定された。まずは国内をメインに導入しているが、海外拠点でも認定を増やしている。トヨタグループの各社でも展開中だという。今後、大規模化したシステム開発を進めていくには、2030年までにSOMRIE認定者300人が必要だと見込み、育成を強化している。
SOMRIE制度の名称は、Specialist(専門性)、Outline(未来の方向性)、Master(匠)、Revolutionary(革新的)、Impressive(感銘)、Enthusiasm(情熱的)の頭文字が由来だ。
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