IoTデータの活用可能性を拡大 現場で使いやすいスマホのAIアシスタント:製造業IoT(2/2 ページ)
MODEは2024年4月25日、現場で取得したIoTデータを基に、現場作業者を大規模言語モデルで支援する「BizStack Assistant」を同年5月1日に提供開始すると発表した。
安心して現場でLLMを使いやすくする技術的工夫も
MODE プロダクトマネージャーの渡邊飛雄馬氏は「これまでデータ確認をしたければ、Web上のダッシュボードにアクセスして、自分の見たい可視化範囲を指定しなければならなかった。それがスマートフォンを少しタップするだけで、すぐに回答が返ってくるようになる。この速さが圧倒的なアクションの効率化につながる」と説明する。
設備の異常確認や定期点検の現場巡回を減らすとともに、データの問い合わせの効率化なども図れる。機器に異常が発生した場合は、「だいたい1分以内」(渡邊氏)を目安にアラートを出すことも可能だ。
現場でLLMを使いIoTデータを安心して利用するために、MODEは幾つかの技術的な工夫を講じている。1つが、Entityモデルによるデータの構造化によって、LLMが理解しやすい形でIoTデータがリアルタイムで整理されている点だ。入力したテキストのコンテキストに応じて、LLMが情報を検索しやすい仕組みを実現した。
また、LLMはあくまでユーザーと対話する役割を担い、必要に応じてMODEが開発したデータ集計や分析機能などを利用する仕組みを採用した。これによって、LLMが直接的に計算や集計などを行わないので、ハルシネーションを防ぎやすくなるという。
すでに、パナソニックのRE100ソリューション実証施設「H2 KIBOU FIELD」で、2024年2月ごろから、設備の発電量や消費電力の見える化、データ集計などを目的に、BizStack Assistantをβ版の段階から導入している。固有マニュアルなどをデータベースに格納して連携させることで、作業者からの専門的な質問にも応答できるようにした。この他、西松建設で建設工事現場での点検作業や異常対応などに適用している事例がある。
これらの導入事例においては、AIアシスタントが出力する数値について、小数点の位置や単位など、インタフェース上のデータの見え方の部分でさまざまな要望を受けた。「LLMによる自由度の高いインタフェースだからこそ生じる要望だ。ユーザーが欲しい形でデータを提供できるようにしていきたい」(渡邊氏)。
今後は国内では物流業界や介護業界での展開も視野に入れる。米国では創薬分野での業務効率化や省力化などでの引き合いもあり、こうした分野の開拓も進める。技術的な展望として、渡邊氏は「年度内は、日報や週報のレポート作成機能を提供できるよう、精度向上に取り組みたい。また、現場の支援手段として、テキストチャットによるものが最適かはまだ分からない。インカムやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)など、幅広い選択肢を検討する」と説明する。
MODE Co-founder 兼CEOの上田学氏は「多くの企業が生成AIのアプリケーション開発を進めているが、事務作業の効率化にフォーカスしているところがほとんどという印象だ。生成AI活用の一番のメリットは、これまで人間が物理的に動かなければならなかった業務でも、現場に行くことなく、少人数で時間短縮してタスクがこなせることにある。この領域に取り組んでいる企業はグローバルで見ても少なく、先鞭をつけていきたい」と展望を語った。
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