発熱する繊維で食材を「チン」! 画期的なポータブルバックで狙う食文化の革命:新製品開発に挑むモノづくり企業たち(3)(2/2 ページ)
本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げて、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第3回はWILLTEXの「WILLCOOK PACKABLE」を取り上げる。
「世の中になかった製品」の安全性をどう担保する?
――以前はB2B製品を作っていらっしゃいましたね。WILLCOOKは初のコンシューマー向け製品となりますが、B2C製品ならではの開発、製造時のご苦労はありましたか。
木村氏 バッテリーを使って発熱するという製品の性質上、消費者の皆さまに安心して使っていただけるように、製造物責任法についてはさらに強く意識するようになりました。取扱説明書の作成にも気を配っています。
課題になったのは製品の安全性をどう保障するかということです。それまでこの世の中に、布のヒーターやバッグといったものがそもそも存在していませんでした。参考にできる情報がなく、自社で安全性を担保するしかないということで、100日間連続で加熱し続けるなどの社内テストを繰り返し、費用も時間もかけながら安全であるというエビデンスを積み上げていきました。
――WILLCOOK PACKABLEについて、これまでのWILLCOOKシリーズと比べてどういった点が新しくなったのでしょうか。
上田氏 「WILLCOOK HO-ON」「WILLCOOK TREK」という2製品を開発してきたのですが、一番大きな違いはモバイルバッテリー仕様になったことです。これまでは7.4Vの専用バッテリーで加熱する設計のヒーターを採用していました。ただ、Makuakeで購入いただいたお客さまから「手持ちのモバイルバッテリーを使いたい」という声をいただいたため、一般的な5Vのモバイルバッテリー対応にするよう仕様を変更しました。それに伴い新たなヒーターを採用したことで、先ほど申し上げたような、10分で100℃に到達する昇温スピードを実現できました。
――品質コントロールができない市販のモバイルバッテリーを使われる可能性に対してはどのようにお考えでしょうか。
木村氏 自社の専用バッテリーについてPSEマークを取得していますが、ユーザーがお持ちのバッテリーに関しては、ご自身で責任を持って対応していただくべきものだと考えています。製造物責任上の観点からも、何かのトラブルが起きた場合に、お客さまのバッテリーが原因なのか、WILLCOOK側の問題なのかは切り分けて考える必要があります。
さらに言えば、WILLCOOK PACKABLE自体はケーブルも含めて布製ですので、あくまでも電気製品はバッテリーのみなんです。そのため、「お客さまと一緒に安全性を担保していく」という考え方でのモノづくりへと、当社も発想を徐々に切り替えているところです。
いかに熱を閉じ込める構造にするか
――「WILLCOOK PACKABLE」の開発に当たって苦労した点はありますか。また、その際の解決方法もお聞かせください。
上田氏 前作までは袋状のボディーバッグのような作りだったのですが、今回は収納できる薄手のリュックということで、素材と形状が大幅に変わりました。それにより激しくなった放熱をどのように防いで、中に熱を閉じ込めるかという部分が一番苦労しました。
最終的にはリュックの一部にポケットを作り、その中に取り外し可能な発熱部分を入れる構造にして対応しました。この発熱部分素材をなるべく分厚くなりすぎず、バックに入れたときにも放熱しすぎないというあんばいに調整するのが大変でした。試作品をいくつも作り、ロガーを付けてデータを検証して、ということを半年ほど繰り返しました。
一方で発熱部分を取り外し可能にしたことで、それ自体を外に持ち出してペットボトルの保温に使ったり、ひざ掛けやお尻の下に敷くなど単品で使ったりしていただくことも可能になりました。
――「WILLCOOK PACKABLE」の具体的な利用シーン、想定ユーザーを教えてください。
上田氏 これまでのWILLCOOKシリーズの中で一番容量が大きいので、災害時の防災リュックとして使っていただくことも想定しています。また乳幼児や小さなお子様がいるお母さんにマザーズバッグとして使っていただき、外出時に離乳食やミルクなどを温めていただくといった使い方も想定していますね。また、Makuakeさんでご購入いただいたお客さまの反応を見ていますと、旅行やアウトドアに持っていきたいという声も多くあり、その用途でも使っていただけると考えています。
木村氏 防災リュックの重要性は広く認知されるようになっていますが、「災害時にしか使わないものを備える」というのは人間の心理としてなかなか難しいものがあります。
この点に関連して、普段から使っているものを災害時にも役立てる「フェーズフリー」という考えをWILLCOOKには取り入れています。デスクの上でお弁当を温めるのをはじめ、新幹線や飛行機の中、また介護用にベッドの上でなど、いつでもどこでも日常生活の中に溶け込ませて使っていただければと思います。
――今後の展望について教えてください。
木村氏 僕たちは布を使って食文化を変えていきたい、手軽にいつもおいしい温度で食べ物が食べられる、飲み物が飲める社会にしていきたいと考えています。温度は“思いやり”です。温かい食事は心のウェルビーイングに不可欠です。暖かいウェアやひざ掛けなど、誰しもの生活に密着した「布」を通じて心が休まる機会を作り、いつでもどこでも食材まで温められる布製品を届けたいと思っています。
このような考えから、現在は布でお湯を沸かせるWILLCOOKの開発を考えています。ハンカチ1枚を電源につないで、いつでもどこでもお湯を沸かせられるようになれば、災害時に命を守る布が出来上がるわけです。布で発熱させられる製品は世界で当社しか作れませんので、人類にとっての未来を切り開くのはWILLTEXだという自負をもって、モノづくりに取り組みたいです。
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筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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