有限要素法入門 〜連立方程式の解法、変位の計算〜:CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(3)(7/7 ページ)
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第3回では、前回作成した全体剛性マトリクスから弾性変形後の変位を求める。そして、変位−ひずみマトリクス[B]を導出する。
図10に片持ちはり内部に発生する応力分布を示します。z軸を傾けて描いていますが、微小変形問題なのでz軸はほぼ垂直です。
z軸上の応力とひずみは次式で表されます。M(x)は曲げモーメントです。
式56を使って、はり全体に蓄えられるひずみエネルギーを求めましょう。
はり理論の次式を上式に代入します。
ここで矩形(くけい)断面の断面二次モーメントの式を使いました。式52を再掲し、式62とします。
速度がゼロのとき、変形量は最大になるはずなので、次式が成立するとき、変形量は最大です。
式50をxで2回微分しましょう。
はり全体に蓄えられるひずみエネルギーは、式64を式61に代入して次式となります。
式63が成立するとき、速度がゼロです。速度がゼロのときのはり全体に蓄えられるひずみエネルギーは次式となります。
式51に従って、式55と式66が等しいと置きましょう。
式67は、変形時の形がコサインカーブだと仮定して導いた式です。どれくらいの精度があるかを調べましょう。図11は、300[mm]スケールをブルブルブルっと振るわせたときの固有振動数です。16.8[Hz]ですね。
式67による計算結果と実験値との比較を表1に示します。実験値との違いは7.5[%]でした。この問題は厳密解があって固有振動数は17.4[Hz]です。式67による計算結果と厳密解との差は3.7[%]で、微分方程式を解かずに連続体の振動の固有振動数を数パーセントの誤差で予測できました。「恐るべし、レーレー法」ですね。
実験値が低めになったのは、スケールを固定している机が木製なので全体の剛性が低くなったためだと考えられます。
片持ちはり問題のまとめです。式55を変形します。
式66を変形します。
式68と式69から、片持ちはりの固有角振動数は次式となります(参考文献[5])。
断面二次モーメントと断面積を積分の中に移動して座標xの関数としました。式70から、断面が変化する片持ちはりでも、積分を数値積分などすれば固有角振動数は容易に求めることができます。
レーレー法まとめ
レーレー法による片持ちはりの固有振動数を解くことと有限要素法の比較を表2に示します。両者はよく似ているので、「実は有限要素法はレーレー法を使っているのだよ」といってもよいと思います。
次回は、剛性マトリクスを導出します。 (次回へ続く)
参考文献:
- [1]日本機械学会|金属材料 疲労強度の設計資料 I(1991)
- [2]戸川|有限要素法概論|培風館(S56)
- [3]三好|有限要素法入門|培風館(S53)
- [4]O. C. ツィエンキーヴィッツ|基礎工学におけるマトリックス有限要素法|吉識、山田 監訳(S50)
- [5]入江敏博|演習機械振動学|朝倉書店(1980)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
関連記事
- 疲労破壊が起きない条件を考える 〜ボルトの疲労強度〜
部品の固定(締結)のために使用する“ボルトの設計”をテーマに、設計者向けCAE環境を用いて、必要とされる適切なボルトの呼び径と本数を決める方法を解説する。連載第2回は、疲労破壊の発生有無を予測する際に必要となる「ボルトの疲労強度」と「ボルトの締め付け条件」の検討のうち、ボルトの疲労強度の検討アプローチについて詳しく取り上げる。 - ボルトが疲労破壊しない条件
部品の固定(締結)のために使用する“ボルトの設計”をテーマに、設計者向けCAE環境を用いて、必要とされる適切なボルトの呼び径と本数を決める方法を解説する。連載第3回は「ボルトが疲労破壊しない条件」について詳しく取り上げる。 - 設計者CAEによる締結部の設計法
部品の固定(締結)のために使用する“ボルトの設計”をテーマに、設計者向けCAE環境を用いて、必要とされる適切なボルトの呼び径と本数を決める方法を解説する。連載第7回では、本連載の最終目標である設計者が使うCAE環境で、必要とされるボルトの呼び径と本数を決める設計法を取り上げる。 - 疲労解析に挑戦、強度設計における繰り返し荷重を評価する
初心者を対象に、ステップアップで「設計者CAE」の実践的なアプローチを学ぶ連載。詳細設計過程における解析事例を題材に、その解析内容と解析結果をどう判断し、設計パラメータに反映するかについて、流れに沿って解説する。第9回は、強度設計において、繰り返し荷重を評価する際に用いられる「疲労解析」を取り上げる。 - 固有振動数解析の流れを“ステップ・バイ・ステップ”で理解する
「構造解析」を“設計をより良いものとするための道具”として捉え、実践活用に向けた第一歩を踏み出そう。第6回は「固有振動数解析」をテーマに取り上げ、その手順についてステップ・バイ・ステップで解説する。 - 熱交換器の破断、熱流体と構造の連成解析で原因を同定
アルテア・エンジニアリングが2014年7月に開催した「2014 Japan Altairテクノロジーカンファレンス」で、住友精密工業 航空宇宙熱制御システム部 技術課の田谷亮氏が、航空機エンジンなどに使われる熱交換器に熱流体と構造の連成解析を適用した事例を紹介した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.