スバルが次世代「EyeSight」に採用、AMDの第2世代「Versal AI Edge」:人工知能ニュース
AMDは、FPGA回路とCPUを集積したアダプティブSoCの新製品として、車載システムをはじめとする組み込み機器でのAI処理性能を大幅に高めた「Versal AI Edge Series Gen 2」を発表した。第1世代の「Versal AI Edge」と比較して、消費電力当たりのAI処理性能で3倍、CPU処理性能で10倍を実現している。
AMDは2024年4月9日、FPGA回路とCPUを集積したアダプティブSoCの新製品として、車載システムをはじめとする組み込み機器でのAI処理性能を大幅に高めた「Versal AI Edge Series Gen 2」を発表した。第1世代の「Versal AI Edge」と比較して、消費電力当たりのAI処理性能で3倍、CPU処理性能で10倍を実現している。併せて、AI処理エンジンを持たない「Versal Prime Series Gen 2」も投入し、AI機能を持たない組み込み機器向けの製品展開も拡充する。関連ドキュメントへの早期アクセスは可能になっており、2025年上期に試作サンプルの出荷、2025年中ごろに評価キットとSOM(System on Module)の出荷、2025年末に量産を開始する予定だ。なお、スバルが次世代「EyeSight」へのVersal AI Edge Series Gen 2の採用を決めているという。
Versal AI Edge Series Gen 2は、組み込み機器などでAIの推論処理を行う、いわゆるエッジAIの3つのプロセスとなる「前処理」「AI推論」「後処理」を1個のICで行えることを特徴としている。AMDの半導体製品は、複数のチップを組み合わせるチップレット技術で知られているが、Versal AI Edge Series Gen 2はTSMCの6nmプロセスで製造される1個の半導体チップだけで構成されるモノリシックなICだ。
前処理は、さまざまなセンサーからのデータを収集し、次のAI推論をしやすいように処理するプロセスとなる。この前処理回路としてFPGAが広く用いられているが、Versal AI Edge Series Gen 2には高性能のFPGA回路と画像処理機能が組み込まれており高効率に実行することができる。第1世代のVersal AI Edgeと比べて、画像データの処理速度は4倍の3.2Gピクセル/秒となる他、2倍の本数の動画ストリーミング処理を行う回路のフットプリントを65%削減できるという。
AI推論を行うAIエンジンも、第1世代のVersal AI Edgeの「AIE-ML」から「AIE-ML v2」にアップデートした。AIE-MLではベクトル演算コアとメモリを1対1の組み合わせとしていたところを、AIE-ML v2ではベクトル演算コア2個にメモリ1個の組み合わせに変えることで処理性能を高めた。また、AIE-MLではFPGA回路に置いていたAIEの制御回路をAIE側に集積している。
また、対応するAIモデルのデータタイプも拡充した。AIE-MLではINT8、INT4、BFLOAT16をサポートしていたが、AIE-ML v2はFP8、FP16、INT16に加えて、さらなる軽量化が可能なMX6とMX9に対応した。MX6を使用した場合、AI処理性能は370TFLOPSに達する。
「AIE-ML v2」がサポートするデータタイプとAI処理性能。High、Mid、Lowは「Versal AI Edge Series Gen 2」の品種によって異なる[クリックで拡大] 出所:AMD
後処理を担うCPUについては、Armの車載対応アプリケーションプロセッサ「Cortex-A78AE」を8コア、リアルタイム処理プロセッサ「Cortex-R52」を10コア搭載している。「Cortex-A72」が2コア、「Cortex-R5F」が2コアだった第1世代のVersal AI Edgeと比べて大幅な性能強化となる。アプリケーション処理性能は10倍の200.3kDMIPS、リアルタイム処理性能でも第1世代のVersal AI Edgeのアプリケーション処理性能を上回る28.5kDMIPSとなった。また、アプリケーション処理、リアルタイム処理のどちらも冗長化のためのデュアルロックステップ動作が可能であり、自動車向け機能安全規格のISO 26262で最も厳しい安全要求レベルであるASIL Dに対応できる。
Versal AI Edge Series Gen 2の品種としては、CPU処理性能とAI処理性能を基準にスケーラブルに6つを展開する。第1世代のVersal AI Edgeも並行して販売して行く方針である。
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