「マイコンでAI」は画像認識へ、Armが処理性能4TOPSの「Ethos-U85」を発表【訂正あり】:人工知能ニュース
Armは、マイコンなどを用いた組み込み機器でエッジAIを可能にする第3世代NPU「Ethos-U85」を発表。第2世代の「Ethos-U65」と比べて4倍となる最大4TOPSのAI処理性能を実現し、リアルタイムでの画像認識も行えるとする。
Armは2024年4月9日、マイコンなどを用いた組み込み機器でエッジAI(人工知能)を可能にするNPU(Neural Processing Unit)の第3世代プロダクトIP「Ethos-U85」を発表した。第2世代の「Ethos-U65」と比べて4倍となる最大4TOPSのAI処理性能を実現し、リアルタイムでの画像認識も行えるとする。併せて、IoT(モノのインターネット)向け検証済み統合型サブシステムの新ラインアップとして、Ethos-U85と最新のマイコン向けプロセッサコア「Cortex-M85」などを組み合わせた「Arm Corstone-320」も発表した。Ethos-U85については、米国のAlif Semiconductorとドイツのインフィニオン(Infineon Technologies)が採用を明らかにしている。
【訂正】初出では「Ethos-U85」のAI処理性能が「最大3TOPS」となっておりましたが「最大4TOPS」の誤りでした。記事は修正済みです。
マイコン向けプロセッサと組み合わせて利用するArmのNPUとしては、2020年2月発表の「Ethos-U55」、同年10月発表のEthos-U65がある。今回のEthos-U85は「Ethos-Uシリーズ」として約3年半ぶりの新プロダクトIPになる。
Ethos-U85の特徴は大まかに分けて2つある。1つは、AI処理に必要な積和演算器の規模(MACs)を拡大して最大AI処理性能を高めたことだ。Ethos-U55のMACsが32〜256、Ethos-U65が同256〜512であったのに対し、Ethos-U85は同128〜2048となった。この他、積和演算の重みによる圧縮を従来の1系列から2系列に倍増することで、メモリ使用量の削減やAI推論の高速化につなげている。MACsが最大の2048で動作周波数が1GHzのときAI処理性能は4TOPSに達する。また、消費電力についても、Ethos-U65と比べて20%削減したとする。
もう1つの特徴は、現在のAIアルゴリズム開発で一般的になったトランスフォーマーモデルに対応したことだ。2020年に発表したEthos-U55とEthos-U65が対応していたAIモデルは、当時一般的だったCNN(畳み込みニューラルネットワーク)とRNN(回帰型ニューラルネットワーク)だった。しかし、NPUとして3年半ぶりの新プロダクトとなるEthos-U85では、急速なAI技術の進化によって一般化したトランスフォーマーモデルに対応することは必要不可欠だった。
また、Ethos-Uシリーズはマイコン向けプロセッサコアの「Cortex-Mシリーズ」と組み合わせて使うことが想定されていたが、Ethos-U85はアプリケーションプロセッサコアの「Cortex-Aシリーズ」と組み合わせて利用できるように、Arm側でLinuxドライバなどを用意している。「アプリケーションプロセッサ向けのNPUは浮動小数点計算に対応する大規模なものが多いが、Ethos-UシリーズのようなマイクロNPUがほしいという要望も出てきている。ミッドレンジクラスの『Coretx-A520』などとの組み合わせになるのではないか」(アーム 応用技術部ディレクターの中島理志氏)という。
検証済み統合型サブシステムのArm Corstone-320は、Ethos-U85の他、ベクター演算処理技術「Helium」を搭載する最新のマイコン向けプロセッサコアのCortex-M85、イメージセンサーからの映像信号を処理するISP(イメージシグナルプロセッサ)のプロダクトIPである「Mali-C55」、「TrustZone」をベースとするArmのセキュリティ認証「PSA」レベル2に対応する機能や関連ソフトウェアなどがセットになっている。中島氏は「マイコンベースの組み込み機器でビジョンAIを実現するためのレファレンスデザインになる」と説明する。
Arm Corstone-320を用いたAIソフトウェア開発を先行して行えるように、TensorFlow LiteやPyTorchなどのAIフレームワーク、これらのAIフレームワークで開発したAIモデルを用いたソフトウェア開発に用いるツールのベンダーなどとの連携を強化する。そして、クラウド上の仮想開発環境である「Arm Virtual Hardware」をはじめプロトタイピング環境も充実させ、半導体製品が量産される前からAIソフトウェア開発を早期に立ち上げられる体制を整える。
中島氏は「これまで、マイコンでのエッジAIに関する取り組みはArmプロセッサを中心に進められることが多かった。これは、AIモデルやAIソフトウェアの開発にリソースを集中するために、マイコン向けプロセッサは標準品ともいえるArmプロセッサを使えばリソースを大きく割く必要がなく、さらにAI関連のソフトウェア開発環境も整っていたからだろう。今回のEthos-U85の投入により、マイコン向けエッジAIに対するさらなる性能向上の要求に応えていきたい」と述べている。
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