現場のエンジニアこそAIの知見を、設立4周年のFS協会が活動報告会:FAニュース
ファクトリーサイエンティスト協会は2024年3月29日、設立4周年・年次活動報告会をオンラインで開催した。
ファクトリー・サイエンティスト協会は2024年3月29日、設立4周年・年次活動報告会をオンラインで開催した。
2020年に誕生した同協会では、中小規模の製造業においてIoT(モノのインターネット)機器を使ったエンジニアリング、センシング、データ解析、データ可視化、データ活用の知識を身に付け、データを軸にした経営判断のサポートを素早く行うアシスタントとして“ファクトリー・サイエンティスト”の育成を目的に掲げている。
ファクトリー・サイエンティストには、IoT機器やセンサーなどを駆使して安価に現場のデータを取得する“データエンジニアリング力”、収集したデータをクラウドに上げ、他のデータと組み合わせて有益な情報を紡ぎだす“データサイエンス力”、データを材料として経営者の意思決定に活用できる“データマネジメント力”の3つが求められる。協会では定期的にロボットや工作機械、AI(人工知能)などをテーマにセミナーを開催し、人材育成に努めている。
由紀ホールディングス 代表取締役社長でファクトリー・サイエンティスト協会 代表理事の大坪正人氏は「現場の機械オペレーターが紙のメモをタブレット端末などに、目視検査をセンサーに置き換えるという草の根活動を進めている。データを集め、分析し、計画、実行して最終的に生産性が上がっていくというサイクルを回すことが重要だ」と語る。
4周年を迎えて協賛会員は27社、賛助会員は28社まで拡大。ファクトリー・サイエンティスト認定者数は間もなく1000人に達するという。2024年度は、いつでも視聴できるオンデマンド講座や協会の認知度を高めるアンバサダー制度の導入なども予定している。
基調講演ではエイシング 代表取締役CEOの出澤純一氏がエッジAIが開く製造業DXの可能性について説明した。2016年に設立された同社は、機械制御や異常検知に関するエッジAIのライセンス提供やAI導入のコンサルティングを行っており、予測だけではなく学習までできるエッジAIを開発している。「指先大もしくは爪先大くらいのチップにもAIを搭載できる軽量実装性が強みだ。われわれのAIは学習したデータを捨てる追加学習が可能になっているため、データをためるストレージが必要ない」(出澤氏)。STマイクロエレクトロニクス、ルネサス エレクトロニクス、NXPという半導体大手もエイシングのパートナープログラムに名を連ねている。
日本の製造業におけるDX推進の課題として人材の需給ギャップが挙がるが、出澤氏は「われわれはAI企業だが、AIができるといって採用面接に来て入社できたのはいまだかつて1人しかいない。AIを開発できる人間と、AIを活用できる人間は異なる。最もAIの知見を知る必要がある人たちは現場のエンジニアだ。彼らがAIの特徴を理解することが大切だ」と話す。
ファクトリー・サイエンティスト賞の表彰式も行われ、日本精工(NSK)がFS育成賞、島田電子工業がFS実践賞を受賞した。
NSKでは2022年にデジタル変革本部を設立。人材育成の一環として生産部門の社員がファクトリー・サイエンティスト協会の講座を利用しており、2023年は約70人が受講した。参加者からは「IoTが身近になっていて驚いた」「現場における気付きが変わった」などの声が寄せられ、実際に加速度センサーを用いたフォークリフトの稼働状況、光センサーによる手作業ラインの稼働状況の見える化などの取り組みが生まれたという。
島田電子工業ではファクトリー・サイエンティスト講座受講後、一定水準を超えるとアラートを出す機能も付いた電流センサーによる社内の使用電力の可視化や超音波センサーを活用した手作業ラインの稼働状況把握に取り組んだ。「“デジタルへの手触り感”を持つことができ、これを基に新たな挑戦に時間を取るという考えを推進できた。他社へのシステム導入などの事業創出体験を得ることができた」(島田電子工業 事業開発の島田直哉氏)。
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