製造DXの4つの成功要因(前編):意地でも「見たいけど見えないデータ」を集めよ!:結果を出す製造DX〜人を育ててモノの流れを改革する〜(3)(2/2 ページ)
モノづくりDXの重要性が叫ばれて久しいが、満足いく結果を出せた企業は多くない。本連載ではモノの流れに着目し、「現場力を高めるDX」実現に必要なプロセスを解説していく。第3回はDX推進時の「4つの成功要因」について説明する。
成功要因(2):人間業を超えるDX
第1回で、DXでは単なる効率化ではなく、かといっていきなり価値創造を目指すのでもなく、まずは人間にはできないことをデジタル化で実現すべきだと語った。デジタル技術が持つ最大の特徴とは「情報の流動化」が果たせる点にある。情報、つまりデータの使いこなし方が鍵になる。
人間にできないことを実現する上で、簡単な方法は「見たいのに見えなかったデータ」を意地でも取得することである。決して、入手しやすいことが最初から分かっているデータを集めることではない。
当社のIoT(モノのインターネット)重量計で在庫管理を行うスマートマットクラウドを例に取ろう。在庫の過不足といった在庫管理の課題は、突き詰めれば「ずっと実物の在庫全体を見続ければ生じない」ということになる。だが、24時間365日、在庫前に張り付いて在庫を管理することは人間だけでは不可能だ。そこでリアルタイムで実在庫のデータを提供しているのだが、まさにこれこそが「見たいのに見えなかったデータ」に当たる。これを集めることが高度化の第一歩である。
データはモノづくりの基本となる品質(Q)、コスト(C)、納期(D)の改善につなげる必要がある。当社のサービスだと、リアルタイム実在庫だけでも、発注や補充点の最適化、リアルタイムの異常検知が可能だ。しかし、さらに下図のように、リアルタイム実在庫データを既存のERPや生産管理、在庫管理、購買管理システムと組み合わせると、メリットは幅広いQCD改善にまで及ぶ。ボトルネック改善によるトヨタ生産方式の実効性向上にさえつながるだろう。「見たいのに見えなかったデータ」単体の分析でも改善につながるが、それを既存データと組み合わせることは大きな改善インパクトをもたらす。
DXで成功するためには、まず典型的な落とし穴を避けなければならない。(1)「悩みから始める」ことで自然と目的を持ち、(2)「人間業を超える」ことで変革レベルのDXを実現するに至ることが重要である。
次回は「DXにおける4つの成功要因」の後編として、製造業の特性を踏まえた残り2つの成功要因を紹介したい。
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筆者紹介
林英俊(はやし ひでとし) スマートショッピング代表
ローランド・ベルガーで製造業中心に経営コンサルティング。Amazon.comで定期購入・有料会員プログラムの立ち上げ・グロースを経験。
スマートショッピングを創業、リアルタイム在庫把握で現場カイゼンが可能な生産管理DX「スマートマットクラウド」を展開。DXやIoTに関する講演多数。
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