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初号機誕生から約30年 「自作キーボード界の黒船」HHKB Studioはなぜ生まれたか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(29)(4/4 ページ)

高級キーボードの草分け的存在ともいわれるPFUの「Happy Hacking Keyboard」。その最新作が2023年10月に発売された、「HHKB Studio」だ。誕生の背景にある、積み重ねられたHHKBの歴史と、HHKB Studioに詰め込まれた設計思想などを伺った。

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Studioの「オープンソース化」を意識した取り組み

――さらに最近のニュースでは、キーキャップの3Dデータを公開されましたよね。これで自分で好きなキーを作れ、というようなところまで踏み込んだっていうのは、どういう思いなんでしょうか。

山口氏 Studioはカスタマイズ性が大きなポイントになります。お客さまが好きなようにカスタマイズするためには、オープンソースにしていかないといけないのではないか、という議論が内部でありました。そのためには、やはりキーキャップの情報もお客さまにちゃんとお見せして、 自分で好きなようにキーキャップを作っていただいてもよいのでは、という結論になり、公開させていただいています。

松本氏 これは個人のお客さまに限ったことではありません。データを公開することでサードパーティーにも、「ライセンス料は取りませんよ。ガンガン作ってください」「でも、きちんとしたものを作ってくださいよ」とメッセージを送り、仲間作りをしようとしているわけです。それこそ昔のPC-98と同じ戦略ですよね。

――なるほど、やはり正規のデータを元に作ってもらえば、品質も担保できるはずというわけですね。ここ数年、自作キーボードブームっていうのが続いてきて、順調に成長してきているわけですけど、貴社ではこういうムーブメントをどのように評価していらっしゃるんでしょうか。

山口氏 HHKBの魅力を広げる「HHKBエバンジェリスト」の中にも、 やはり自作キーボードかいわいをぐいぐい引っ張っていただいている方たちがいらっしゃいます。 キーボードは、メーカーが出すものを使うだけでなく、自分に合ったものを作っていくという動きもどんどん僕は広まっていけばいいかなと思っています。

 インタフェース製品は、やっぱり自分の使い心地が1番良いものを用意できるところに、自由さがあると思います。その中で、私たちメーカーが作る“キーボードの1つの答え”ではないですが、「Studioはメーカーがガチで作った自作キーボード」みたいな言われ方をすることもあります。

八野裕氏(八野氏) 自作キーボードかいわいで有名な遊舎工房さんというお店があるのですが、ここの方が、「Studioが出てきて、自作キーボード界にメーカーが乗り込んできた」「自作キーボード界の黒船だ」ぐらいの感じで仰っていました。それぐらいのカスタマイズ性を持っているのが、このStudioになりますね。

 自作キーボードのイベントもありまして、そうしたところに私たちメーカーのキーボードが出展するとみんな触りに来てくれます。そこで「HHKB持っているんですよ」と言いながら、一方では自分でもキーボードを作っていらっしゃるとお話しされる。そういった、“こだわりのキーボード”という市場をメーカーと個人でどんどん高め合って作っていくっていうのは、とても面白いことかなと思っています。


 自作キーボード界の黒船ともいわれるHHKB Studioだが、開発者だけでなく私たちライター仲間にもついにHHKBの軍門に下る者が相次いで出てきた。それだけStudioが持つカスタマイズ性と、マウス操作も全てできるオールインワン性が評価されているのだと思う。

 キーボードは配列も含めてあまりいじる要素がないものと思われがちだが、実際には皆、個々人でもっとこうだったらいいのにと思っている部分は多分にある。自作すればそれがかなうわけだが、メーカーが量産するとなると、やはりコンセプトのブレなさが重要になってくる。

 初代HHKBから四半世紀が過ぎたわけだが、それだけの歴史がありつつも、実はバリエーションはそれほど多くはなく、どれも息の長いモデルとなっている。そして初代のコンセプトを貫きながら、次の時代への適合を図ろうというのが、HHKB Studioの戦略ということであろう。HHKBのコンセプトは、現代でもこれからもまだまだ通用するということのあらわれでもある。

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筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)


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