キヤノンは2024年1月19日、フランスのMERSENと技術提携を開始したことを発表した。これにより、キヤノンのガルバノスキャナーモーター「GMシリーズ」に搭載するMERSEN製「optoSICミラー」の販売、サポートを開始した。
キヤノンではレーザー加工機などレーザーを用いた装置において、レーザー光を反射するミラーの角度を制御するガルバノスキャナーを販売している。MERSENは先端産業向けの電気機器や素材の分野に強みを持ち、optoSICミラーはレーザースキャナー用の高速ミラーとして、航空宇宙や医療の分野で高精度の計測や加工に使われているという。これまでキヤノンでは合成石英の標準ミラーを使ったガルバノスキャナーを販売していたが、今後はoptoSICミラーを使ったガルバノスキャナーの販売、サポートも正式に行う。
optoSICミラーは焼結炭化ケイ素を用いており、合成石英に比べて高剛性で軽量となっている。さらに、ミラーの裏側には植物の葉脈のような特殊な形状が独自技術により描かれている。「葉脈形状が後ろから支えることで、早い動作をした際のミラーの反射面のゆがみが少ない」(キヤノン)。そのため、従来製品と比べてさまざまな性能向上が期待できる。
まずは速度だ。合成石英のミラーより軽量なため、同じガルバノスキャナーモーターでも、ミラーをより早く動かすことができる。そして、早く動かしてもゆがみが少ないため精度も保てる。キヤノンによれば、トラッキングエラーを同条件として比較した場合、最大速度が最大で約30%向上するという。
レーザーを移動した時、実際には目標位置に対してわずかにオーバーシュートして振動、収束するという現象が生じるが、optoSICミラーではその際に整定幅に収まるまでの整定時間も最大で30%短縮できる(0.1度ステップ移動時の比較値)。指令値と実際のスキャン動作の時間遅れであるトラッキングエラーも、最大速度を同条件として比較した場合に約30%低減する。
また、軽量なため同じガルバノスキャナーでもより大口径のミラーを扱え、より大口径のレーザーに対応できる。それにより高精度に集光し、微細加工が可能になる他、ワーキングディスタンスも伸ばすことができる。
金属3Dプリンタ、レーザーマーキング、レーザー溶接などの精度や生産性の向上に貢献する。「これまでハイエンドのアプリケーションに対しては、他社製のミラーを使うしかなかったが、技術提携によってわれわれのソリューションとして提供できるようになった」(キヤノン)。
キヤノンが2023年から提供しているチューニングテンプレートでもoptoSICミラーに対応する。チューニングテンプレートはキヤノンのガルバノスキャナーを搭載した装置を作るメーカーが、速度重視やバランス、応答重視、従来標準の4つのテンプレートから用途に応じたチューニングを選択できるソフトウェアだ。
装置メーカーによってエンドユーザーに提供する加工の特性は異なる。「従来は1つの設定でしか提供できず、個別の特別なチューニングが要る際はわれわれの方で行っていたが、チューニングテンプレートを使えば装置メーカーの方でエンドユーザーに合わせた設定を選ぶことができる」(キヤノン)。
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