工場またぐ熱利用の最適化目指す「HaaS」 IHIと日本IBM、北九州市が連携:脱炭素
IHIと日本アイ・ビー・エム、北九州市は、工場や企業における熱利用のマネジメントを通じた、北九州地域でのGX推進に関する連携協定を締結した。熱利用を最適化するマネジメントサービス「HaaS」の実証実験や事業化に向けた取り組みを進める。
IHIと日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、北九州市(福岡県)は2024年1月18日、工場や企業における熱利用のマネジメントを通じた、北九州地域でのGX(グリーントランスフォーメーション)推進に関する連携協定を締結した。熱利用を最適化するマネジメントサービス「HaaS(Heat as a Service)」の実証実験や事業化に向けた取り組みを進める。
熱エネルギーを企業/工場間でのマッチング
現在、製造業などの企業や一般家庭ではさまざまな形で熱エネルギーを利用しているが、国内全体で見ると有効利用されずに排熱として処理される熱エネルギーの量も少なくない。今回の連携協定を通じて3者は、複数の企業や工場間での熱エネルギーの取引プラットフォームを立ち上げ、HaaSと呼ぶ熱利用の最適化の仕組みの構築と事業化を目指す。
具体的には、複数の工場や企業の生産プロセスにおける熱の需要と供給をリアルタイムで分析することで、熱エネルギーが余っている企業と不足している企業をマッチングするプラットフォームを作る。日本IBMの担当者は「排熱を使いやすい熱に変換するとともに、企業間で融通し合うインフラの導入や熱融通状況の監視や最適化、熱源となる機器の集約などを行う」と説明する。
プラットフォームのユーザーにとっては、自社で余っている、または不足している熱の種類や量が把握しやすくなる。これらのデータを基に、他社や他工場と熱エネルギーを交換し合うとともに、その効果予測や実際の熱の融通までを一連のサービスとして利用できるようになる。
今回の連携協定において、主眼に置くのが「地域GXの推進」だ。HaaSの実証と事業展開を進めることで、地域における熱エネルギーの見える化とユーザー間での取引の仕組みを構築する。これを3者は「北九州モデル」と名付けて、社会実装を進める方針だ。
HaaSの事業化に向けて、まずは実証フェーズとして北九州地域の事業者間での工場内熱利用の最適化を進める。すでに化学製品業や金属加工業など6社が協力を表明しており、参加企業数は今後増加する見込みだという。北九州モデルの他地域への展開や電力も含めたエネルギー利用最適化の取り組みも視野に入れつつ、2030年までに数百億円規模の事業に成長させる計画だ。
3者の役割は大まかに次のように分かれている。IHIは製造業としてのノウハウに基づく実証事業化のリード、日本IBMは2022年11月に北九州市で開設した「IBM九州DXセンター」などを通じたシステム開発や、新規事業開発支援、機器運用データの管理に用いるデジタルソリューションの開発を行う。北九州市は実証実験への参加を希望する企業の掘り起こしや、学術研究機関とのマッチングなどを担う。
自社だけでなく、複数の企業や工場をまたいだ取り組みによって、より効率性の高い熱利用が実現しやすくなる。燃料費やCO2排出量の削減が期待される他、熱源の集約によって機器メンテナンスの工数削減効果も見込める」(日本IBMの担当者)という。
IHI 常務執行役員 産業システム・汎用機械事業領域長の茂垣康弘氏は「熱の使用量などをリアルタイムで可視化することは決して容易ではなく、世界的にも進んでいない領域だ。また、これまでにも素材産業などを中心に省エネ対策などで自社内での熱の再利用などは進められてきたが、企業をまたいで熱エネルギーを融通する取り組みは世界的に見ても先進的だといえるだろう」と語った。
実際に地域内の企業で熱エネルギーを交換し合うための技術としては、既存の蓄熱技術などの活用も考えられるが、「企業の生産活動量は一定ではなく、時間によってばらつきがある。デジタルソリューションを活用することで、企業間での熱エネルギーのやりとりに最適な技術や手段を選んでいきたい」(茂垣氏)とする。
北九州市は2022年に産官学金が連携した「北九州GX推進コンソーシアム」を設立するなど、「環境先進都市」としての取り組みを進めている。今回、GX推進の中でも「熱」の活用に着目した理由について、北九州市 市長の武内和久氏は「排熱量の多さはこれまでも課題視されていたエネルギー問題だ。解決は難いが、チャレンジすべき課題である。GXをリードする北九州市として取り組む意義が大きい」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 熱を“宇宙に”逃がす、貼ると工場内温度が最大15℃低下するフィルム型新素材
SPACECOOLは「第2回脱炭素経営EXPO」で独自技術で太陽光の熱を防ぎつつ内部冷却を実現する素材「SPACECOOL」を展示している。 - パナソニックとヤンマーが初の協業、エネルギーの課題「廃熱」を有効活用へ
パナソニック 空質空調社とヤンマーホールディングス傘下のヤンマーエネルギーシステムが、パナソニックの吸収式冷凍機とヤンマーのコージェネレーションシステム(コージェネ)の組み合わせによる分散型エネルギー事業の開発と販売で協業すると発表。今後10年間で合計約1200億円の事業規模を目標に掲げる。 - ブラザー工業が工場で燃料電池システムを稼働開始、電気と熱を供給
ブラザー工業は、瑞穂工場の敷地に自社開発の燃料電池「BFC4-5000-DC380V」を設置し、稼働を開始した。コージェネレーションシステムとしての利用に向け、自社内で発電、発熱状況のデータを取得することを目的とする。 - 工場設備の排熱実態調査報告書を公表、未利用熱の活用で省エネ化を促進
新エネルギー・産業技術総合開発機構と未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合は、15業種の工場設備の排熱実態調査報告書を公表した。この結果を基に、未利用熱の活用技術を産業分野へ適用させる方策を明らかにし、省エネ化を促進する。 - スマート工場とカーボンニュートラルは関係があるの?
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第19回では、最近注目されているカーボンニュートラルとスマートファクトリーの関係性について解説します。