ユーザーと開発者が議論、自動運航船開発の“日本らしい進め方”:船も「CASE」(3/3 ページ)
日本郵船(NYK)グループのMTIは、「Monohakobi Techno Forum 2023」を開催した。このイベントは自動運航船をはじめとする研究開発成果を報告するもので毎年開催されている。
自動運航船開発におけるコンセプトオペレーション
コンセプトオペレーションでは、開発背景を説明するイントロダクション、システムの将来的な発展、システムの詳細、開発したシステムの目標、基本的な機能要件、オペレーション環境、社会的なインパクト、ヒューマンマシンインタフェースの仕様などが含まれる。
「どのような環境で自動運航船を運用していくか、自動運航船ができた場合にどのように社会的なインパクトがあるか、乗組員の運用にインパクトがあるかというものを記載し、それに対して、人間とシステムがどのように関わっていくか、ヒューマンマシンインタフェースをどのように成立させるかというような資料を書いている」(中村氏)
このコンセプトオペレーションを基にして概念設計とリスクアセスメントに取り掛かる。ここでいう概念設計の目的は、システム実装のために必要な要件の具体化だ。モデルを用いて概念、基本設計、リスクアセスメントを実施し、要求機能構造のトレーサビリティーを担保する。また同様に、リスクアセスメントは、リスクと設計要求との関係を明確化し、その上でシミュレーションを活用して設計への定量的なフィードバックが目的となる。
「例えば、今2人で実施している航海当直を1人にしていくにはどうしていけばいいか。機関プラントをどのようにしたら遠隔監視ができるか。MTIではリスクアセスメントの手法を体系化して自動運航船の開発に活用できるよう進めている」(中村氏)
MTIでは概念設計において「STPA」(System Theoretic Process Analysis)と呼ぶアプローチで基本設計を実施し、詳細設計ではFMEA(Failure Mode and Effects Analysis:障害やリスクを特定して優先順位を付与した上で対策を計画するリスク管理ツール。品質向上やコスト削減に貢献する)を実施するといった2段階のリスクアセスメントを行っている。中村氏の説明では、この過程で時系列的な要素を踏まえたロスシナリオも抽出しているという(特定のリスクイベントが発生した場合の潜在的な損失や影響を分析する)。
例えば、航海環境が輻輳(ふくそう)海域から大洋航海に変わる、もしくは操船タスクが避航操船から離着岸操船へと変化すると、それに合わせてシステムの機能要件が自動的に変化することが求められるが、このとき、必要な要件が満たされているかを確認することが重要になる。
また、短期避航計画(予期しない他船の接近によってすぐに避けなければならないような状況での避航計画)の策定において、処理の上限時間の間隔が十分かを考慮しなければならないが、この場合はシーケンス図や本船搭載センサー、短期航海計画機能に関するファンクションフローブロックダイヤグラム図を用いた上で、時系列に関する要素を踏まえたリスクの抽出を実施する必要がある。
このように、洗い出されたロスシナリオを基に、リスク対応を可能な限り検証し、シミュレーションでは実施できない項目は実船による試験で検証ことになる。すなわち、概念設計で実施したものをシステム全体の試験で、さらに、シミュレーション環境による陸上統合試験でできなかった部分を洋上試験で実施することでリスクアセスメントを進めていくと中村氏は説明していている。
日本発の規格を国際標準に押し上げる
規格ワーキンググループについては、短期目標としてMEGURI2040で開発しているシステムのデファクトスタンダード化を目指し、成果物として“フォーラム規格”の作成を進めている。長期的には国際規格化を目指す一環としてISOやIECといった国際規格も見据えており、日本が開発した自動運航船を国際規格とすることで将来の開発主導権を確保する意図もあるという。
現在、規格ワーキンググループで自動運航システム連携を説明する資料を作成し、内部に設けた8つのワーキンググループのそれぞれでその機能と性能要件を説明する資料を作成している。
中村氏の説明によると、センサー、インテグレーター、プランナー、コントローラーの航海系ワーキンググループでは、各性能要件やインタフェースの規定を実施しており、機関プラントでは、機関室制御を陸上で監視し乗り組み機関士が1人でも安全運航できるための要件を規定する。また、船陸間通信では、自動運行システム実現に向けた通信の要件を規定し、情報記録管理では自動運航船の運用管理に必要な情報と共有方法の範囲を規定する。そして、自動運航船のステータス管理については、自動運行システム実現に向けたシステムの集中管理機能に関する要件を規定し、8つのサブワーキンググループで議論を進めている。
MTIが目指す自動運航船が航海する未来とは
中村氏は説明の最後に自動運航船で実現したい未来について言及した。DFFAS+が目指すゴールは、2050年に向けたファーストステップとして、国際的および国内的な自動運航船に関するルールの規格整備を進めることにある。また、複雑な新機能開発における日本版システムインテグレーションの体制の構築も目指している。
日本版システムインテグレーションでは、海運会社や船主の要望を十分にヒアリングした上で設計情報に反映したCONOPS(Concept of Operations)を作成する。ここが欧州の開発体制との大きな違いだと中村氏は訴求する。「作成したCONOPSを基に造船所、メーカーと議論し、開発されたものが海運会社、船主の要望にあったものかどうかということを確認していく形でのシステムインテグレーションを考えており、その規格化によって継続的に利用できる体制の構築を念頭に置いて作業に取り組んでいる」(中村氏)
欧州の体制ではシステムインテグレーターが主導権を持っている体制とは異なり、日本版システムインテグレーターではユーザーと開発者が議論を重ねることで継続して利用できる自動運航規格を策定するとしている[クリックで拡大] 出所:MTI
自動運航船によって想定される未来については「人間と機械の相互作用による安全運航と省力化の達成」(中村氏)と主張する。そのファーストステップとして大型船でも内航船規模の1人当直体制が実現可能であることを示すという。さらにセカンドステップでは、一部船橋で航海当直を「0」にした機関士1人による運航体制を構築するだけでなく、それを継続的に利用できる体制の構築を目指すとしている。
中村氏は、「自動運航船は安全性の向上、人手不足の対応、物流の安定を実現するための必要な技術」と述べ、そのためには自動運航船の開発、検証、運用、教育を取りまとめるシステムインテグレーション体制が必要だと訴える。そのためにMEGURI2040で日本版システムインテグレーション体制の構築を開発、規格、社会実装の3本柱で取り組んでいくと述べている。「ひとえに、安全で安定した輸送環境を提供するため、自動運航船を提供していきたい、社会に実装していきたいという開発関係者の思いだ」(中村氏)
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