脱炭素や品質などデータ共有の仕組みで主導権争い、取引条件が変化する2024年:MONOist 2024年展望(2/2 ページ)
製造業DXが進む中で、企業の枠を超えた形で自由なデータ流通を安心して行える「データ流通基盤」の重要性が高まっている。既に欧州などで動きは出ているが、2024年はその仕組み作りや主導権争いが進み、ある程度の形が定まってくる1年になる見込みだ。
デジタルパスポートで情報開示が必要な「欧州バッテリー規制」
一方、これらの欧州各国の動きに一部で足並みをそろえつつ、一部では別の動きも示しつつしているのがEUである。EUのデータ共有の取り組みの中で、日本の製造業に大きな影響を与えると懸念されているのが2023年8月に施行された「欧州バッテリー規制(EU Batteries Regulation:Regulation 2023/1542)」である。欧州バッテリー規制は、調達、製造、使用、リサイクルを1つの法律で規定したライフサイクルアプローチを採用した初の欧州法だ。この規制に基づき、2025年以降、EV(電気自動車)、軽輸送手段(e-bikeやスクーターなど)、産業用充電式バッテリーのCO2排出量に関する申告要件や、性能クラス、上限規制などを段階的に導入されるという。
欧州バッテリー規制で、ポイントとなっているのが、消費者がどの電池を購入するか、十分な情報を得た上で決定できるように、各電池の詳細情報が記載された「デジタルパスポート」にQRコードでアクセスできるようにすることだ。これにより、各種製造情報や製造時やサプライチェーンでのCO2排出量などの情報をデータ流通基盤により開示していくことが求められるようになる。
実際には、今後加盟国による法律の適用や詳細な規則を規定する2次法の整備などが必要になるため、実効力を伴う形で規制が進むのはまだ先だと見られているが、既に法律としては施行されているため、これらの整備が進めば、強制的に従うことが求められるようになり、日系企業への影響は大きくなると見られている。
日本独自のデータを守るデータ共有基盤「ウラノス・エコシステム」
これら欧州で進む積極的な枠組み作りに対し、日本政府も手をこまねいているわけではない。日本がこれらの対抗軸として訴えているのが、企業や業界を横断しデータを連携、活用するデータ連携に関するイニシアチブが「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」だ。
ウラノス・エコシステムは、人手不足や災害激甚化、脱炭素への対応といった社会課題の解決に向けて、企業や業界、国境を跨ぐ横断的なデータ共有やシステム連携を行うための、日本版のデータスペース(データ共有圏)だ。2023年「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」で正式に発表された。単一の業界や企業が持つ情報だけでは解決が難しい問題などに対し、このデータスペースを経由してデータを相互活用することで、さまざまな課題解決につなげていくことを目指している。
ウラノス・エコシステムが目指しているのは、相互運用性は確保した上で、各国が独自のルールや仕組み作りが行えるような仕組みだ。そのために、日本としては、相互運用性を確保した上で日本のルールが適用できるデータスペースを用意する。アーキテクチャ設計については、情報処理推進機構(IPA)のデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)を中心に進め、想定されたユースケースに応じた実証を進めていく計画だ。その1つのターゲットとして、欧州デジタルパスポート対応するデータの収集と総合運用性を確保などに取り組んでいるという。
ウラノス・エコシステムを推進する経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長の和泉憲明氏は「日本ならではのさまざまな法規制やルール、デジタルプロダクトパスポート制度、データ連携基盤をそれぞれ切り分けて整備をし、それぞれのレイヤーで他国で調整や連携を進めていく形が理想だ。ルールの調整は政府間で、その他の相互接続面では民間で行うような仕組みとし、そのデータ連携基盤としてウラノス・エコシステムがあるということだと考える」と狙いについて訴えている。
データを収集し外部接続する仕組みまでは必須に
これらに加え、カーボンニュートラルに向けた「スコープ3」の情報開示などを個別に求める動きも、米国アップルなど、グローバル企業の中では増えてきており、従来よりも詳細な情報を外部に共有しなければならない場面は確実に増えてきている。
この動きに対し日本の製造業は、ウラノス・エコシステムで対応していけばよいのか、Catena-XやManufacturing-Xなどドイツなどが主導する動きに乗るべきなのかは判断が分かれるところだが、いずれにしても、社内でこうしたデータを収集する仕組みと、外部共有用に接続していく仕組みまでは必要になってくるだろう。その後のつなぎ先をどうしていくのかは、2024年のこれらのデータ共有基盤の動きを見据えつつ、ビジネス要件と照らし合わせつつ、適宜判断していくのが現実的ではないだろうか。将来的には、それぞれで相互運用性が確保されるようになってくると見ているが、2024年については、これらの仕組みが現実的に活用される1年となるため、その動きは注視しておきたいところだ。
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