真夜中に始める伝統工芸品の制作 熱い若手達と産業の未来をつくる富山の職人:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(11)(4/4 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は、富山県高岡市にある「漆芸吉川」の蒔絵師で、高岡伝統産業青年会 第46代会長の吉川和行さんを取材しました。
伝産が抱える様々な課題
これまで多くのイベントを開催してきた中で、会員同士で商品企画や新しい企画について何度も意欲的に話し合ってきました。ですが、イベント後は目先の業務に追われて、費用対効果の低さや人員不足を理由に企画が頓挫してしまったり、実現しても途中で休止したりしてしまうケースが多かったのです。
伝産は本業に危機感を感じ、新しい可能性を求め、高いモチベーションを持って集まっているメンバーが多いので、彼らにとってメリットがある具体的な商品開発の話が進み、どうにか実績を作れたらと考えています。
終業後に始まる伝産のミーティングは24時を過ぎることも
伝産メンバーの打ち合わせはそれぞれの会員が本業を終える19時ごろから始まることが多いです。任意での参加になるので、発言力や傾聴力のあるメンバーが集結し、議論が白熱して24時を過ぎても打ち合わせが続くこともしばしばあります。イベント前になると話し合うトピックが増えるので、どうしても時間がないときは朝の6時からファミレスで行う時もあります。
これからの世代に伝産を引き継ぐために第46代会長が思うこと
伝産の会長という立ち位置は代々順番に誰かが担ってきたのを見てきたので、自分の番がいつか回ってくることは数年前から意識していました。50周年という大切な節目の年に会長になったのはうれしいのかどうなのか自分でもよく分かりませんが、とにかく身が引き締まる思いです。
卒会まであと2年。自分にできることは、最近入った若い会員と数年前に卒会したレジェンド世代と呼ばれる先輩方との両方との関わりを持つ数少ない世代として、彼らの橋渡しの役割を担うことだと思っています。
あとがき
後日、吉川さんのご提案で伝産の定例ミーティングを見学させていただきました。19時ごろから始まり、21時過ぎに会議が終わったと思いきや、それは休憩時間の始まりだったのです。そのあとも続く話し合いを目の当たりにし、伝産の皆さんの肉体的、精神的タフさに驚きました。
伝産や蒔絵に真っすぐに向き合う吉川さんは、その苦悩もユーモアのあるお話に変えて聞かせてくださいました。その境地に達したからこそいえるユーモアから、吉川さんの底なしの強さを感じました。
今回の長期取材で見つけたかったことの1つは、東京にファンコミュニティーができるほど、高岡という街や伝産という存在の虜になる人が多いのはなぜなのか? ということでした。それは高岡の新鮮でおいしい海鮮や、海も山もある豊かな自然環境はもちろん、初対面でも前から知り合いであるかのようにフレンドリーに話してくださる、街の方々が生む居心地の良さなのかもしれません。
(ものづくり新聞記者 佐藤日向子)
その他の富山県高岡のモノづくりと人、イベントの取材記事はこちら(外部リンク)。
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ものづくり新聞より
北陸地方は伝統を色濃く残しながら、若い力と新しい発想力で産業を進化させてきました。令和6年能登半島地震により被災した、この地域のひとつである富山県のモノづくりを改めて知っていただくことで、伝統産業を守るひとつのきっかけが生まれればと願っています。
著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、160本以上のインタビュー記事を発信し、町工場のオリジナル製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
佐藤日向子
スウェーデンの大学で学士課程を修了。輸入貿易会社、ブランディングコンサルティング会社、日本菓子販売の米国ベンチャーなどを経て、2023年からものづくり新聞にジョイン。
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