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真夜中に始める伝統工芸品の制作 熱い若手達と産業の未来をつくる富山の職人ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(11)(3/4 ページ)

本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は、富山県高岡市にある「漆芸吉川」の蒔絵師で、高岡伝統産業青年会 第46代会長の吉川和行さんを取材しました。

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「いつか家業を継ぐんだろうな」と思っていた学生時代

 姉が二人いる末っ子長男として育ったので、小さい頃からなんとなくいつか自分は家業を継ぐんだろうなと思っていました。でも祖父や父が実際どんなことをしているのかは正直なところ、あまり知りませんでした。

 それまでは自動車製造業や飲食業で働いていたのですが、20代のときに父親が体調を崩したことがきっかけで仕事を辞め、家業を継ぐことになりました。その時に「自分が継がないと、父親の持つ技術や道具が消えてしまう」という危機感を抱き、それを自分の手で残さなければという使命感が生まれました。

ちょっと変わった “蒔絵師あるある”

 蒔絵師はそれぞれ空間の捉え方に個性があり、漆器のどこにどのくらい蒔絵の装飾を施すのかはその蒔絵師の技量やセンス次第。ですが、空いている空間が寂しいのではないか、もっと装飾を増やしたほうがいいのではないかと不安になり、最終的に多過ぎる装飾を描いてしまう現象に悩まされる蒔絵師もいます。業界の人はこれを「空間恐怖症」と言います。

 でも、私の場合は逆に空間を残すのが好きで、空間にゆとりを持ったデザインで制作することが多いです。その人らしさが作品に如実に表れるので、コンテストなどでたくさん作品が並んでいる中でも父親の作品は一目瞭然で見分けがつきました。


蒔絵の装飾作業の様子[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞(提供:高岡伝統産業青年会)

 漆器に手の油分が付くと漆がうまく乗らなくなるので、手の側面を漆器にくっつけずに、指サックを付けた小指を軸にして筆を動かします。この描き方が定着してしまったので、役場などで書類を書く際に小指が立ってしまい、ちょっと恥ずかしい思いをしたこともあります。

「隣に同業者がいてくれたら…」 地道な作業は孤独との戦い

 高岡には塗師(ぬし)など別の形で漆を扱う人はいますが、蒔絵師をなりわいとしている人は街にほとんどいません。作業をするときはずっと一人なので、隣に同業者がいたらいいなと思うこともあります。

 孤独に感じることもありますが、伝産の用事で日中はいろんなところを飛び回るので、そもそも日中に本業の作業に時間を割けないこともあります。家族との時間も大事にしたいので、なんだかんだで、よし! と筆を取るのは深夜になっていることが多いです。家族が寝静まった真夜中の時間だと部屋に風が立ちませんし、精神的にも落ち着いて作業ができます。


筆を取るのは家族が寝静まった深夜になることが多いそう[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞(提供:高岡伝統産業青年会)

日頃の伝産での吉川さんの役割

 これまで担当してきたイベント前の出展者とのやりとりや当日の進行などの実務から離れることになった分、伝産の代表として自治体などとのやりとりや補助金の手続きなどのために外出をすることが増えました。街の皆さんの協力がなければ成立しないイベントも多いので、元会員などへのあいさつ回りも行っています。

 学生時代から人々の仲介役で、ちょっとふざけたりして場を盛り上げるタイプだったので、伝産でも2つの意見で割れて議論が白熱し過ぎたときは間に入ります。どちらも同じくらい良いアイデアで結論が出ない場合は私が決を出す場合もあります。


吉川和行さん 出所:ものづくり新聞

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