マイクロソフトにWindows以外のOSは無理?「Azure RTOS」は「Eclipse ThreadX」へ:リアルタイムOS列伝(42)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第42回は、第4回で紹介した「Azure RTOS」がMicrosoftの手を離れて「Eclipse ThreadX」としてオープンソース化される話題を取り上げる。
ThreadX Interest Groupの6つの目的
ThreadX Interest Groupの目的は以下の6つとなっている。
- Eclipse ThreadXの機能安全の認証の維持。Interest Groupはこの認証を維持するために必要となるコストを供出する
- Eclipse ThreadXのブランディングプロジェクトの立ち上げ。より知名度を増して市場で広範に利用してもらうためには、ブランディングの確立は必須となる
- Eclipse ThreadX Marketplaceの開発。そもそもEclipse Foundationは統合開発環境(IDE)である「Eclipse IDE」のマーケットプレースの立ち上げで大きな成功を収めているのはWebサイトにアクセスしてみれば分かる。同じ方法論をEclipse ThreadXでも用いることをEclipse Foundationでは考えているが、さすがにIDEとRTOSを「どちらもソフトウェアだから同じ」として扱うのはむちゃが過ぎるわけで、まずはThreadX Marketplaceを立ち上げるとしたらどんな形にすべきで、どんな風にエコシステムパートナーとコラボレーションすべきか、などの調査を開始する
- そのEclipse ThreadXのエコシステムの立ち上げ。Microsoftが立ち上げてきたエコシステムをある程度そのまま引き継ぐことは可能だろうが、例えば仕様の改定方法(そもそも仕様の改定に携わるメンバーをどう定めるか)やトレーニング、イベントなどエコシステムに求められるさまざまな事柄をどうEclipse ThreadX Foundationとしてけん引していくか、という基本的な方針を定めるとともに、実際にどう動いていくかを決める。これらの事柄をまず定めないことには、物事が始まらない
- エコシステムの拡充に向けたEclipse ThreadX compatibility programsの策定
- プロジェクト自身やブランド確立、認証維持などに向けての安定した資金の確保
ちなみに、Eclipse Foundation内部ではInterest GroupとWorking Groupの2つの組織形態が存在する。Interest Groupはベンダー非依存のガバナンス、それと協業をどう行うかの管理がメインであり、実際の作業などは行わない。それを行うのはWorking Groupで、Interest Groupで扱う事柄に加え、それこそエコシステムの開発や仕様の策定、ブランディングやcompatibility programの開始などの実作業を行うことになる。つまり、現状はまだInterest Groupの段階にとどまっており、Working Groupに移行するのは早くても2024年以降になるだろうと思われる。
ちょっと気になるのは、前述したように2023年10月17日の時点では11社がInterest Groupに参画していたわけだが、Eclipse Foundationの同年11月21日のエントリを読むと、ArmとEricssonの名前が落ちて9社になっていることだ(図5)。
Ericssonはそもそもなぜ参加したのだろう? という感じだが、ArmはRTOSの「Keil RTX5」と被るからだろうか?(Keil RTX5も機能安全に対応したバージョンが提供されている)。まぁ、あくまでまだInterest Groupの範囲であって、Working Groupになるとまた参加するようになるかもしれないのだが。
またx86のサポートがないにも関わらずAMDが参加しているのは、旧XilinxのFPGA製品にArmコアが搭載されている関係でThreadXを必要としているからだ(ThreadXはCortex-A/Cortex-Rを用いたAMP/SMPに対応している)。だとすると、Intelの名前がないのはちょっと不思議だが、旧Alteraから移行した同社のFPGA部門は間もなくスピンアウトするからだろう。おそらく、スピンアウト後の新会社がWorking Groupでは参加する、ということになるかもしれない。
それにしても、MicrosoftはやっぱりWindows以外のOSはうまく扱えなかったんだな、というのが正直な感想である。これでThreadXを外に出してしまうと、残るWindows以外のOSの大物はLinuxベースの「Azure Sphere OS」ということになるが、Microsoftは果たしてどこまでこれを自身で提供し続けるのだろうか。
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