アマゾン買収から2年半、「Amazon FreeRTOS」は最も手頃なRTOSに:リアルタイムOS列伝(2)(1/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第2回は、アマゾンの買収によってRTOSのメインストリームに躍り出た「Amazon FreeRTOS」について紹介する。
連載「リアルタイムOS列伝」の第2回、というかここ10年のリアルタイムOS(RTOS)の動向を概説した前回を除いて実質的な第1回になる今回は「Amazon FreeRTOS」をご紹介したい。
Amazon FreeRTOSの話は、アマゾン(Amazon.com)による買収を受けてのこちらの記事で触れているが、簡単に説明すればもともとはリチャード・バリー(Richard Barry)氏が開発したRTOSで、これをバリー氏は「FreeRTOS」という名前で公開していた。同氏の興したReal Time Engineersという会社が、このFreeRTOSの開発と配布、サポートを行っている。
ちなみにFreeRTOSそのものはGPL v2ライセンスの形で提供されており、誰でも無償で利用可能な半面、商用で使う際にもソースコード開示義務があるという、ちょっと厄介なものであった。これを避けるために、FreeRTOSのうちGPLの形で提供されている全てのモジュールを書き直して、非GPL化した「OpenRTOS」という互換RTOSがドイツのWITTENSTEIN high integrity systemsから提供されている。
図1 アマゾンによる買収の直前、2017年7月11日時点における「FreeRTOS」のWebサイトのスナップショット。"FreeRTOS is solely owned, run, developed and maintained by Real Time Engineers Ltd."と明記されている(クリックで拡大)
確認できる範囲で最初のリリースは2003年12月末のバージョン1.2.6なので、もう17年ほど提供が続いている格好になる。現時点での最新版はバージョン10.3.1だが、サポート対象は23社のアーキテクチャに及ぶ。新しい所では「Armv8-M」対応の「Cortex-M33」や、SiFiveの「RISC-V RV32」などのサポートも追加されており、最近のMCU製品でも動作するようになっている。ちなみに、これは公式にサポートした、つまりReal Time Engineersや後にFreeRTOSを買収するアマゾンが移植作業したアーキテクチャの話で、これ以外にさまざまなMCUベンダーが自社で移植作業を行い、その結果を寄贈したものもあるので、実際にはさらに多くのアーキテクチャで動作する。
アマゾンの買収によりMITライセンスでの無償公開へ
さてそのFreeRTOSだが、2017年11月に開催された「AWS re:invent 2017」において、アマゾン(正確に言えばAWS)がReal Time Engineersを丸ごと買収したことを発表。FreeRTOSの資産一式も手に入れ、しかもこれらのMITライセンスによる無償公開を発表したことで、いきなり風向きが変わる。MITライセンスの場合、著作権およびMITライセンスの全文の表示が義務付けられているだけで、ソースコードの改変、再配布、商用利用、有償提供など何でも可能で、逆にソースコード開示の義務もない。このため、商用製品に使っても全く問題ない。これを受けてMCUベンダー各社は、途端にAmazon FreeRTOSへの対応を進めることになった。
そもそもアマゾンというかAWSがFreeRTOSを買収することになった理由は、クラウドのAWSとIoT(モノのインターネット)をつなぐ「AWS IoT」のコネクティビティを確保するためである。2015年にAWS IoTが発表されたときに多くのスターターキットも発表されたが、これらはベアメタルのMCUの上にネットワークスタックだけを実装したものがほとんどだった。当初はこれでも事足りていたが、昨今の多様化するIoTのニーズに対応するためにはRTOSがあった方が好ましい。ただ、既存のRTOSにAWS IoTへのコネクティビティを追加するよりは、いっそ標準搭載するRTOSを自身で配布する方がより広くAWS IoTを利用してもらえる、と判断したようだ。
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