シミュレーションによるシフトレフトがDXの実現を加速させる:Ansys Simulation World 2023 Japan(2/2 ページ)
アンシス・ジャパンはグローバルイベント「Ansys Simulation World 2023 Japan」を開催。“人類の進歩を促進するイノベーションに力を”をテーマに多数の講演を展開した。本稿では基調講演の内容を中心にお届けする。
デジタルエンジニアリングでビジネスにインパクトを与える
続いて、米Ansys ワールドワイドセールス&カスタマーエクセレンス担当シニアバイスプレジデントのWalt Hearn(ウォルト・ハーン)氏が「デジタルエンジニアリングでビジネスにインパクトを与える」と題し、講演を行った。
ハーン氏は、製品開発における変革の中心となるのがデジタル技術を活用した効率化だとし、「多くの企業では、クラウドやHPC(高性能計算)で支えられているデジタルツインやエンジニアリングシミュレーション、AI(人工知能)といった次世代技術を用いた、設計、エンジニアリング、製造プロセスにおけるインテリジェントな意思決定が求められている」と訴える。そして、近年、今後の経済活動に影響を与える可能性のある技術が「実際に使われ始めている事例を多く目にするようになってきた」(ハーン氏)という。
その代表的な例として、ハーン氏は「(ロボットによる)自動化」を挙げ、Tesla GigafactoryやAmazon.comの倉庫で活用されているスマートロボットを紹介。Amazon.comの倉庫では10万台以上のロボットが配置されており、大規模な作業効率化が図られていると同時に、従業員が作業中にケガをするリスクも回避できていると説明する。さらに、ロボットの活躍が従業員の働く機会を奪ってしまうことなく、「ロボットを導入し始めた2012年以降、Amazon.comでは約30万人の雇用を生み出している」とハーン氏は述べる。
次に、ハーン氏は変革に直面する産業の一例として、民間航空宇宙産業に目を向け、従来と同じ航空機燃料を使い続けるのか、持続可能な混合航空機燃料を使うのか、さらには水素などの代替燃料の使用や航空機の電動化に舵を切るのか、さまざまな選択肢があるとし、「こうした検討は物理的なテストやプロトタイプの製造だけでは解決できない」(ハーン氏)と指摘する。
そして、こうした業界の変革に重要な役割を果たすのが「シミュレーションを含めたデジタル技術である」(ハーン氏)とし、推進駆動系システムの効率改善や航空機の電動化、操縦機能の自動化などの開発において、シミュレーションをコアとするデジタル技術が活用されているという。
自動車産業も同様で、電気自動車(EV)を市場投入するまでに、新しいシステムやレイアウト、それらを組み合わせたプロトタイプを何千通りもテストする必要がある。これらの作業は物理的なテストやプロトタイプでは間に合わず、「自動車メーカー各社では研究開発の取り組みを加速するために、Ansysの包括的なマルチフィジックスシミュレーションを活用している」とハーン氏はアピールする。
続けて、ハーン氏は自動車開発で現在注目されているSDV(Software Defined Vehicle)についても言及。「現代の自動車は1億行のソースコードで走行しており、自動運転車になると約10億行ものソースコードが必要だといわれている。これは今よりも少し前の時代、宇宙船を月に着陸させるために必要とされたソースコードの約1000倍に相当する規模だ。10億行ものソースコードを手入力してテストをパスすることは不可能といえる。そのため、自動コード生成により、さまざまな認証に対応したエラーのないソースコードを生成し、それを現実世界を再現したシミュレーション環境で実行することが求められる」(ハーン氏)とし、Ansysのソリューションであれば10億行のソースコードも短時間で認証できることを訴える。
その他、ハーン氏はAnsysのエンジニアリングシミュレーションによって、潜在的な故障モードの検出を設計プロセスの早期に実現することの利点や、シミュレーションを原動力とするイノベーション創出の価値、シミュレーションを通じたデータ活用の効果などについて説明した。
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