騒音低減技術の基本「遮音」と「吸音」を理解する 〜遮音について〜:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(18)(5/5 ページ)
“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第18回では、騒音低減技術の基本である「遮音」と「吸音」のうち、遮音について取り上げる。
コインシデンス効果
額面通りの遮音効果が得られない理由はいろいろありますが、その一つに「コインシデンス効果」があります。図9に平面音波が斜めから板に入射し、同時に、板に横波が発生していてcbの速度で進行している状態を示します。音波は圧力の粗密波なので、板にプラスの圧力(赤色)とマイナスの圧力(青色)が周期的に作用していて、圧力作用位置の赤色部は横波の進行方向に移動します。
今、図9のように音波の波長と板の横波の波長が一致した状態を考えます。次式が成立しています。
音速を周波数で割ると波長でしたので、周波数をfとして式28を書き換えます。
板の単位幅当たりの曲げ剛性Bを次式で定義します。
はりの曲げ剛性は断面二次モーメントとヤング率の積なので次式でした。
b=1[m]とすると、式30と式31はよく似ています。Bははりの曲げ理論から類推できると思います。
板の横波の速度は次式で表されます(参考文献[2])。
ω=2πfと式32を式29に代入し、変形します。
面密度Mは板の密度をρbとして、ρb×t×1[m]×1[m]なので、これを代入します。
sinθ=1のときfは最大となり、これを「コインシデンス限界周波数fc」といい、次式となります。
コインシデンス周波数以上の音に対しては、板が曲げ振動をして遮音効果がなくなります。では、数値を代入してみましょう。例えば、板厚3[mm]のガラス板の場合は以下となります。
式25による等価損失は37[dB]ほどあるのですが、3400[Hz]以上の音に対してはこの等価損失程の遮音効果は期待できません。といっても等価損失が0[dB]まで低下するわけではないようです。
いろいろな材料のコインシデンス限界周波数を図9に示します。
通常の騒音対策では300〜4000[Hz]を対象とするのでこの領域を図10に着色しました。ガラス板の場合、板厚2[mm]以上でコインシデンス周波数が騒音対策の対象とする周波数レンジ内となるので注意が必要です。
次回は、吸音材と遮音材を使ったら騒音を何デシベル低減できるかを計算する方法を説明します。お楽しみに! (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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