騒音低減技術の基本「遮音」と「吸音」を理解する 〜遮音について〜:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(18)(4/5 ページ)
“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第18回では、騒音低減技術の基本である「遮音」と「吸音」のうち、遮音について取り上げる。
拡散入射の等価損失
壁を通過する音は四方八方からやってくるので、図6のような場合の等価損失が必要となります。このような等価損失を「拡散入射の等価損失TL」といいます。図2の測定の音源室は拡散音場であるので、図2の測定によるものは拡散入射の等価損失となります。
拡散入射の等価損失は次式で表されます(参考文献[2])。
では、式25を導出しましょう。図7に示すよう遮音材の微小面ΔSがあり、微小面ΔSを中心とする半径rの球を考えます。半径rの球上の微小面daに、ΔSに向かうIの大きさの音波があるとすると、微小面daは出力Idaの音源と考えることができます。daから距離r離れた微小面ΔSでの音響インテンシティdIθの大きさは次式となります。
……紙面が足りません。結論だけにしておきます。
式26に数値を代入しましょう。
式27が一般的に使用されている近似式です。200[Hz]以下で厳密式から少し異なる値となります。遮音設計では拡散入射の等価損失を使います。
等価損失の計算例
では、板厚1[mm]の鋼板がどれくらいの等価損失なのか計算してみましょう。面密度はM=7.8[kg/m2]、空気の密度はρ=1.21[kg/m3]、音速は342[m/s]を、式25に代入した結果を図8左図の青線に示します。500[Hz]では22[dB]、1000[Hz]では26[dB]くらいとなります。図8左図で200[Hz]以下の領域でグラフが曲がっています。近似式である式27によるとグラフはほぼ直線になるので、200[Hz]以下の領域で近似式の誤差が無視できなくなります。
遮音の質量側であれば簡単に20[dB]以上の遮音効果が計算上は得られるのですが、板厚1[mm]の鋼板が壁一面に張られた状態を想像しましょう。板がペコペコしていて、「本当に額面通りの騒音低減効果があるの?」と感じられるでしょう。実際のところ、いろいろな事情で遮音が額面通りの効果が得られた経験は少ないです。図5の考察では板の剛性は考慮していませんでした。この程度の板厚の鋼板だと鋼板そのものの板曲げ振動の発生が可聴周波数帯域で容易に起こるので、板の振動を抑制する必要があります。鋼板による遮音では、連載第8回で述べた制振材を一緒に使う必要があります。
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