収益を最大化する蓄電池の充放電計画を自動立案できるAIを開発:脱炭素
グリッドは社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」の蓄電池制御最適化エンジン「ReNom Charge」を開発したと発表した。
グリッドは2023年11月2日、オンラインで会見を開き、社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」の蓄電池制御最適化エンジン「ReNom Charge」を開発したと発表した。
ReNom APPS for Industry SaaSは、電力、海運、サプライチェーン、鉄道といった4分野のオペレーション最適化を実現する社会インフラ特化型SaaSで、追加されるReNom Chargeは蓄電池制御を起点にGX(グリーントランスフォーメーション)を推進するエネルギーソリューションとなっている。
2024年度中に正式リリース
昨今、脱炭素社会の実現に向けて太陽光などで発電した再生可能エネルギーの導入が加速する中で、GXとして再生可能エネルギーを有効活用できる蓄電池の需要が高まっている。特に電力系統に接続する蓄電池は、電気代が安い時に買電し高い時に売電するために使え収益化が図れる他、自社の工場やオフィスでの需要ピーク時に放電することでエネルギーコストとCO2排出量の削減が行える。
しかし、収益最大化やCO2排出量の最小化を達成するためには、再エネ発電量や電力需要、電力市場価格などの予測データを基に複雑な分析を行い、最適な充放電計画を立案する必要がある。加えて、それぞれの予測データに誤差は必ず生じるため、精度の高いいシナリオを策定することは難しく、蓄電池の効果的な運用には課題が存在する。
そこで、グリッドはこれまでの電力会社とのさまざまな取り組みを通じて蓄積したAI(人工知能)開発ノウハウを生かし、予測の変動リスクも考慮した最適な充放電計画を立案する蓄電池制御最適化エンジンとしてReNom Chargeを開発した。
ReNom Chargeは、AIエンジンが複数の再エネ発電量と電力市場価格などの予測シナリオから変動リスクを確率的に計算し、収益最大化やCO2最小化などの目的に沿って最適化された蓄電池の充放電計画を自動立案する。これにより、電気市場取引による収益向上やピークカットによるエネルギーコストとCO2排出量の削減を実現する蓄電池の運用を実現できる。
具体的には、機械学習、深層強化学習、深層学習、ヒューリスティック(ある程度正解に近い解を見つけ出すための発見方法)、数理最適化のアルゴリズムを組み合わせたAIエンジンで、クラウドで提供される。担当者が再エネ発電量や市場価格予測などのしきい値を入力することにより、AIエンジンが、再エネ発電量や電気市場価格などを、楽観パターン、中立パターン、悲観パターンといった3パターンのシナリオで予測。続いて、AIエンジンが、これらのシナリオをベースに電気市場価格などの変動リスクも考慮し、収益を最大化する複数の蓄電池充放電計画を自動立案する。
自動立案される蓄電池充放電計画については、リスクとリターンが異なる複数のパターンが生成されるため、担当者は利益と危険性を考慮して計画を選べる。
さらに、外部システムとの連携により、蓄電池の運転制御や効率的な運用を可能になる。既に、データ検証において効果的な運用ができることを確認しており、今後は蓄電池を活用したい事業者やエネルギー関連の新規事業に取り組みたい事業者との協業を通して実運用を目指していく。
また、新たに蓄電池事業に参入する事業者や再エネと蓄電池を組み合わせてより効果的なエネルギー運用を行いたい事業者向けに、事業者の環境に合わせた蓄電池の選定から各種システム導入まで一貫した開発も視野に入れており、事業者の最適な導入に貢献する。
グリッド 事業開発部 部長の飯野健人氏は「ReNom Chargeの開発は完了しており、顧客ごとにカスタマイズすれば実装できる状態だ。提案自体は既に複数社に行っているが、正式なリリースおよび導入は2024年度を見込んでいる。正式リリース時には他社が開発した蓄電池の制御や取引のシステムと組み合わせて販売することも想定している」と話す。
ReNom Chargeで生かされている電力会社とのAI開発
ReNom Chargeの開発では、北海道電力、四国電力、九電工との取り組みを通じて蓄積されたAIの知見が生かされている。
一例を挙げると、北海道電力では、発電機の運転計画で膨大な組み合わせや制約条件を考慮する必要があり、従来の人手によるオペレーションでは、属人的な意思決定に依存することや業務負担の重さが課題となっていた。さらに、火力発電力を抑制する時間に合わせて、効果的に水力発電を運転することは各発電機の水力効率や使用量の違いから難度が高く、CO2排出量のさらなる追求が困難だった。
そこで、北海道電力のエネルギーノウハウとグリッドのデジタルツイン/AI最適化技術を組み合わせたシステムを開発した。システムの実証実験では、従来は約2時間かかる火力発電と水力発電の運転計画策定業務をAI最適化技術により十数秒に短縮した。さらに、1日の運転コストを3%減らせる計画を策定できることも判明。そのため、発電コストの低減とともにCO2排出量のカットにも貢献することが期待されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ドイツでハイブリッド蓄電池システム事業を実証、PCR供給で約95%の落札を達成
NEDOはドイツで実施したハイブリッド蓄電池システム実証事業の成果と今後の展望について発表した。 - 車載蓄電池を定置型にリユース、でも本当に使える? 診断&最適化サービスを展開
再生可能エネルギーの利用が広がる中、需要が高まる定置型蓄電池システム向けに、リユース蓄電池の診断と最適化ソリューションを展開するのが横河ソリューションサービスだ。同社の蓄電池ソリューションへの取り組みを紹介する。 - 東芝が蓄電池システムの充電監視をBLEで無線化、エラー発生率は10年間で1回以下
東芝は、工場やプラントなどのインフラなどに用いられる蓄電池システム内の各蓄電池モジュールの充電状態を監視する「充電状態監視」について、BLE(Bluetooth Low Energy)による無線監視が可能なことを実証したと発表した。 - EVと定置用蓄電池を同時に充放電、「あとからEV購入」にも対応
パナソニック エレクトリックワークスは2022年12月2日、EV(電気自動車)のバッテリーと定置用蓄電池を連携させるV2H(Vehicle to Home)蓄電システム「eneplat(エネプラット)」の受注を2023年2月21日から開始すると発表した。EVのバッテリーと蓄電池を同時に充放電できるようにし、太陽光発電の電力を家庭内で有効活用する。 - 継続的な再エネ導入にEVや蓄電池を活用、東電やホンダなど17社で実証事業
東京電力ホールディングスは2022年6月15日、蓄電池や電気自動車(EV)、自家発電などの分散型エネルギーリソースを活用した実証事業を開始すると発表した。送配電事業者、小売電気事業者、システム/ICT事業者、エネルギーリソースプロバイダーが参加し、革新的なエネルギーマネジメントシステムとリソースアグリゲーションの確立を目指す。 - EVリユース電池の蓄電システムや劣化診断で関西電力と東芝系が協力
関西電力と東芝エネルギーシステムズはEVのリユース電池を使用した蓄電池システムや、EVの電池劣化診断の実証を開始する。