車載蓄電池を定置型にリユース、でも本当に使える? 診断&最適化サービスを展開:電動化
再生可能エネルギーの利用が広がる中、需要が高まる定置型蓄電池システム向けに、リユース蓄電池の診断と最適化ソリューションを展開するのが横河ソリューションサービスだ。同社の蓄電池ソリューションへの取り組みを紹介する。
電力は需要(発電)と供給(使用)を同時同量で一致させる必要があるが、自然の影響で発電量が左右される再生可能エネルギーは、発電のタイミングや発電量が、使用のタイミングや使用量と一致させることができない。そのため、効果的に発電した電力を使用するためには、蓄電池により調整することが必要となる。
しかし、電気自動車(EV)などでリチウムイオン二次電池の需要が急速に高まる中で、大型定置用蓄電池システムに使用するリチウムイオン二次電池の調達が非常に難しくなっている。そこで注目されているのが、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HEV)などで使用されている蓄電池のリユースである。大型定置型蓄電池システムで使用される蓄電池はEVなどのクルマで利用されるものほどの性能は要求されないため、リユースが可能だ。
ただ、使用された蓄電池は劣化が発生するために、使用できる容量にばらつきがある。大型定置用蓄電池システムとして効率的に使用するためには、このばらつきを抑えバランスを調整する必要がある。そのためには、正確な蓄電池容量を把握することが必要だ。こうした課題を解決するために横河ソリューションサービスが展開しているのが、リチウムイオン電池向けの蓄電池診断ソリューションだ。
%表示ではなくAh単位で正確な容量を把握
蓄電池における電池容量は従来は電流計での電流値の測定のみで測定してきたが、誤差が発生しそれが累積されるために実容量との差が「10〜20%ずれている可能性があった。そのため、蓄電池を使用する際もそれを織り込み、20〜80%の幅で使用しており、無駄が発生していた」と横河ソリューションサービス ソリューションビジネス本部 コンサルティングセンター エネルギーマネージメントビジネス部 部長の松下武司氏は従来の測定方法について語る。
一方で、横河ソリューションサービスでは以前からインピーダンスアナライザーなどを販売しており、電流と電圧、内部抵抗の関係性から、電流と電圧を把握することで、残存容量をAh単位で正確に測定できる。「誤差は5分の1程度に抑えられる」(松下氏)。
この正確な把握により、電池セルごとのバランス調整も精度高く行えるようになり、大型定置型蓄電池システム全体を効率よく使用できるようになる。松下氏は「運用中のデータで基準値とのデータ比較で診断できるロジックであるため、運用を止めて診断をする必要がなく、稼働中のシステムでも使用できることも特徴だ」と語っている。
正確に状態が把握できることにより、誤差を織り込んだバッファーを用意する必要がなく制限まで電池容量を使用できる。「電池の容量としては20%程度増やすことができる。条件によっては放電可能量を1.5倍以上にまで伸ばせた実証結果などもある。バランス調整作業の周期も伸ばすことができ、現場の負荷を大きく低減できる」と松下氏は効果を述べる。
今後増える車載用蓄電池の再利用ニーズを捉える
今後の展開について松下氏は「EVやPHEVの普及が加速する中で、これらの蓄電池を活用したいという声を多く聞いている。まだまだ日本ではこうしたリユース用の蓄電池が多く出てくる段階ではないが、数年後には必ず生まれてくる。今からアプローチをして、対応できるようにしていく」と語っている。
具体的には、車載用の蓄電池は搭載されているリチウムイオン二次電池はそれぞれ特性が異なっているため用途に応じた二次利用先への提案を進める。例えば、EV用は大容量のリチウムイオン二次電池が使用されているため、定置型大型蓄電池システムとしての利用に適している。一方で、HEV用蓄電池は高出力で充放電を切り替えることが得意なため、ライトレールや電動フォークリフトなどでの利用が期待されている。「こうした用途に合わせた二次利用先への提案を進めていく」(松下氏)。
また、横河ソリューションサービスでは、こうした蓄電池診断に加え、リバランスの実施タイミングなどを示すオンライン最適化や、コンサルテーションなども行っている。松下氏は「劣化要因の排除や設備利用範囲の拡大、容量最大化、蓄電池停止時間の削減などさまざまな価値を提供できる。今後は新たな蓄電池システムに組み込む提案も進めており、2023年度は実証を進める計画だ」と語っている。
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