誰もが3Dフードプリンタを使える世界に、パーソナルで新鮮な食体験創造を目指すスタートアップ:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(9)(5/5 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は3Dフードプリンタを用いて新たな食領域を開拓するByte Bitesさんを取材しました。
3Dフードプリンタのワンストップ導入支援や試作/商品開発
取材から約1年となる2023年9月、追加取材を行いました。「食感のデザイン」と「食のパーソナライズ化」という2つの事業を主軸に進化を続けるByte Bitesの最新情報をお届けします。
食品メーカーの開発部門など、3Dフードプリンタを導入している企業や団体は少なくありません。しかし、うまく活用することのできる技術者がいるかどうかは別問題。歴史や知見もまだまだ少ないこの分野では、3Dフードプリンタを使いこなせないと悩むケースが多いといいます。
Byte Bitesはそんな悩みを抱えている食品メーカーや飲食店に対して、目指す成果物のすり合わせを丁寧に行い「飲食店や開発現場で自社で使いこなせるようになるまで」サポートしています。幾つか事例を紹介しましょう。
事例1:「規格外・端材の野菜を活用したい!」/飲食店@NEO新宿アツシ
新宿にあるこちらの飲食店では、規格外として廃棄予定の野菜や、調理過程でどうしても出てしまう端材をうまく活用したメニューは作れないかと悩んでいました。Byte Bitesと出会う前、3Dプリンタメーカーにも相談したそうですが、具体的な知見や技術はなかなか得られなかったといいます。
Byte Bitesはメニューの素材開発、形状選定、3Dプリンタによる印刷検証、そして運用の面までワンストップで支援を行い、廃棄予定のニンジンを活用したメニューを完成させました。味はチーズをベースにしています。こちらは実際にディナータイムのお通しとして提供されています。
事例2:身体に必要な栄養素を詰め込んだ、あなただけのクッキー/NTTデータ
NTTデータと共同で「一人一人の身体の状態に適したパーソナルなクッキー」の開発に取り組んでいます。これは健康診断や遺伝子情報を分析し、身体に必要な栄養素を含んだクッキーを提案するというサービスです(※現在、実証実験中)。
Byte Bitesは素材開発や形状選定、3Dプリンタによる印刷検証に加えて、分析情報を基に身体の状態や栄養素クッキーの情報などをアウトプットするシステムの構築も行っています。
出力が簡単に操作できるようなソフトウェアも開発
3Dフードプリンタで印刷する際、作成したデータを「どう出力するのか」という部分に関して、現時点ではユーザー側が技術も知見もまだ十分に蓄積していません。3Dフードプリンタを身近に使えるようにするために、Byte Bitesは簡単かつ直感的に出力するためのソフトウェア開発をしています。
例えば、飲食店で見かけるメッセージプレート。誕生日のお祝いなどの際、皿に名前や年齢、メッセージなどを描かれるケースが思い浮かびますが、これを3Dフードプリンタで出力することができるソフトウェアを開発しました。これは実際に先ほど紹介したNEO新宿アツシさんに導入済みで、スタッフの方が文字を入力するだけでメッセージプレートを作ることができます。
また、食感や歯応えをデザインできるという3Dフードプリンタの良さを、もっと使いやすくするためのソフトウェアも開発中です。「サクサク」「ぽりぽり」などの食感ごとにパラメータがあり、どんな食感の食べ物を出力したいか直感的に操作することができます。
これらのソフトウェア開発は新たな事業ではありますが、3Dフードプリンタの研究や実験を行っていく上で、Byte Bitesで使うために自社で開発してきたソフトウェアがベースとなっています。現時点ではこういったソフトウェアは世の中にほとんどないそうで、3Dフードプリンタをより一層、身近に感じられるきっかけとなると期待されます。
いかがでしたか? 若杉さんの取り組みや見ている未来には、デジタルを通した新しいものづくりのワクワクを感じていただけたのではないでしょうか。ものづくり新聞では、今後も若杉さんの挑戦に注目していきたいと思います。
Byte Bites株式会社
所在地:東京都新宿区百人町1丁目10-15 JR新大久保駅ビル4F
代表:若杉 亮介
会社HP:Byte Bites
3Dフードプリンタの実演が見られるByte Bites出展の展示会情報
JAPAN MOBILITY SHOW 2023(2023/10/26〜11/5/東京ビッグサイト)
JAPAN MOBILITY SHOW 2023では以下のような展示物を見ることができます。
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著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、100本以上のインタビュー記事を発信し、町工場のオリジナル製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
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製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
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新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
佐藤日向子
スウェーデンの大学で学士課程を修了。輸入貿易会社、ブランディングコンサルティング会社、日本菓子販売の米国ベンチャーなどを経て、2023年からものづくり新聞にジョイン。
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