誰もが3Dフードプリンタを使える世界に、パーソナルで新鮮な食体験創造を目指すスタートアップ:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(9)(4/5 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は3Dフードプリンタを用いて新たな食領域を開拓するByte Bitesさんを取材しました。
手先の器用さが影響しないから3Dプリンタに引かれた
――3Dプリンタと聞くと、どちらかというと工業向けのイメージがあります。
若杉さん そうですよね。実は私は工業系学科からのスタートです。大学と大学院ではみなさんがイメージされるようなプラスチック樹脂などの素材で出力される3Dプリンタを用いて、どのような領域で3Dプリンタを活用すると価値が生まれるかを研究していました。
――3Dプリンタにはいつ頃から関心を持っていましたか?
若杉さん 3Dプリンタをはじめて見て触れたのは大学に入学してからです。大学は同じキャンパス内に文系の総合政策学部と理系の環境情報学部という2つの学部があったのですが、入学してみると文系/理系に関係なく、興味のある研究ができる大学でした。私は文系の学部に入学しましたが、どちらかというと理系っぽいモノづくりの道に進みました。
――モノづくりの道に進みたいと思ったきっかけはありましたか?
若杉さん どうしてもその大学で学びたくて1浪したので、入学の時点から「やれることはなんでもやりたい」という意識が高く、1年生の頃からコンペや、モノづくり系の大会に出場していました。大会に向けた学生団体にも所属していて、いろいろなことをやった結果、モノづくりって面白いなと思ったのがきっかけです。
――幼少期はどんなお子さんでしたか?
若杉さん 機械を分解したり、PCをいじったりして遊ぶのが好きな子供でした。中学生くらいからインターネットでいろいろと調べていじるようになり、Web上に出てくる警告などのポップアップの出し方を調べて自作して遊んでいました。でも手作業でモノづくりするのは苦手でした。
――図工の授業などはあまり得意ではなかったですか?
若杉さん 図工の授業はめちゃくちゃ苦手でした。手作業で何かを作るのが苦手で、同級生が隣でちゃんとしたものを作っているのを見てうらやましく思っていました。単純にノコギリで板を切ることもうまくできなくて、なんで自分はこんなにできないんだろうと。だからこそ、手先の器用さが影響しない3Dプリンタに引かれたのだと思います。3Dプリンタは自分の表現したいことをそのまま表現できるのが良いです。
――大学では具体的にはどのような研究をされていたのですか?
若杉さん 大学3年生までは切削機やレーザーカッターなど3Dプリンタ以外の機械にも触れ、モノづくりの知識を深めていました。大学4年生の頃に同じ大学の看護医療学部と共同でガーグルベースン(寝たままの姿勢でうがいした水などを受けるのに使うカーブ型の洗面器)を開発しました。既存のガーグルベースンの輪郭は平均的な形状になっているので、頬がこけている人だと形が合わなかったり、素材が固くて頬に当たると痛かったりします。
そこで、患者さんの顔の形を基にガーグルベースンの形状をモデリングして3Dプリンタで出力しました。素材も柔らかいものを使用し皮膚に優しく使いやすい製品にしました。
3Dプリンタで製作したガーグルベースン
――そのガーグルベースンは実際に患者さんに使ってもらったのですか?
若杉さん 実際に何名かの患者さんに使っていただき、さまざまな意見をいただきました。はじめはうまく形状が出力できず、水がこぼれてしまい患者さんが不安になってしまったことがありました。この経験から、誰も傷つけないデザインを意識し始めました。
患者さんの顔をインプットすると、どんな形状のガーグルベースンが適しているのかが自動的にアウトプットされるツールも開発しました。それ以前は自分の作りたいものを3Dプリンタで作ることが多かったのですが、誰かのために作るというモノづくりの価値や面白さを感じました。
――デジタルフードデザイナーという肩書の若杉さんの“食”についてのこだわりも気になります。好きな食べ物があれば、教えていただけますか?
若杉さん 甘いものがめちゃくちゃ好きです。パフェなどは結構いろいろなところに食べに行っていますね。渋谷区周辺のお店に行くことが多いです。
――最後に、若杉さんの描く未来を教えてください。
若杉さん 3Dフードプリンタによって調理がデータ化されることで、素材と機材さえあれば遠く離れた人とでも同じものを食べられるという共有体験や、アレルギーや食生活に配慮しながらおいしく食べることができます。新たな食体験を通して、誰もが「食」を楽しめる世界を作りたいです。
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