試作仮想化を進めるキヤノン、事業部をまたいでシミュレーションモデルを活用:Canon EXPO 2023
キヤノンおよびキヤノンマーケティングジャパンはプライベートイベント「Canon EXPO 2023」を開催し、同社のモノづくり力の強みについて紹介。さまざまな事業部門をまたいで開発/設計プラットフォームを構築し、その中で試作仮想化技術のライブラリーの蓄積などを進めていることを紹介した。
キヤノンおよびキヤノンマーケティングジャパンはプライベートイベント「Canon EXPO 2023」(2023年10月17日:東京国際フォーラム、18〜19日:パシフィコ横浜ノース)を開催し、同社のモノづくり力の強みについて紹介。さまざまな事業部門をまたいで開発/設計プラットフォームを構築し、その中で試作仮想化技術のライブラリーの蓄積などを進めていることを紹介した。
製品開発においてCAE(Computer Aided Engineering)など仮想環境でのシミュレーションの活用は必須となりつつある。しかし、シミュレーションには膨大なコンピューティング能力が必要となる一方で、用途は各事業や製品によって個別のものとなっており、全社的に汎用的なシステムを用意するだけでは使い道が限られる。ただ、各事業個別でシミュレーション環境を用意するには負担が大きくなり、十分な性能を確保できないようなケースも多く発生する。
キヤノンでは開発/設計環境におけるこうした課題に対応するために、全社的に試作仮想化環境を整えるプロジェクトを推進。基本的なコンピューティングパワーの用意など、共通部分については全社的に統合して基盤を用意しつつ、事業個別のシミュレーションツールについては各事業で開発できる体制を整えた。共通領域では、CADの3DデータをCAEに自動的に変換する技術や独自の内製ソフトウェアを開発し、仮想化基盤上で設計精度を高め、実機での試作を限りなく減らした開発を行えるようにした。
また、シミュレーションに使用する材料の特性値は推計値を利用するケースも多いが、キヤノンでは実測値を活用することでシミュレーションの精度を上げるような取り組みも行っているという。「基盤事態は基本的にはさまざまな外部ツールなども組み合わせて構築しているが、一部では内製のソフトウェアも組み合わせて実現している。全てを試作レスで行えるわけではないが実機試作を減らすことで大きく開発期間短縮や精度の向上を実現できている」(説明員)。
さらに、落下衝撃や振動、発熱など、製品開発におけるさまざまなシミュレーション内容をモデル化し、ライブラリーとして保存し、それを事業の壁を越えて活用できるようにしているという。例えば、複合機で使用されている熱気流の試作仮想化技術をスマートフォンやテレビなど高精細ディスプレイの製造装置に活用するなど、ノウハウの蓄積と有効活用を進めている。「高精細ディスプレイ製造装置では、レーザーセンサーでステージの距離を測り高精度の位置決めを行っているが、温度変化による空気の揺らぎがレーザーセンサーの精度に影響し、品質に影響するような状況が生まれていた。そのために高精細ディスプレイ内の空気の流れを最適化する必要があるが、これに複合機内の気流の最適化を行うために使ったシミュレーションモデルを活用できた。このように遠く離れた製品領域でも、相互に活用できる領域があり、それを活用できる基盤を構築できたことが強みだ」(説明員)としている。
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