アリを用いて孤立環境がもたらす行動異常や寿命短縮のメカニズムを解明:医療技術ニュース
産業技術総合研究所は、社会性昆虫のアリを用いて、社会的孤立環境がもたらす行動異常や寿命短縮の一端を明らかにした。社会的孤立によって高い酸化ストレス応答が認められたが、抗酸化剤の投与で行動異常と寿命短縮が緩和した。
産業技術総合研究所は2023年9月27日、社会性昆虫のアリを用いて、社会的孤立環境がもたらす行動異常や寿命短縮の一端を明らかにしたと発表した。社会的孤立によって高い酸化ストレス応答が認められたが、抗酸化剤の投与で行動異常と寿命短縮が緩和した。
生殖機能を持たない労働アリは、社会的孤立により個体寿命が短縮する。今回の研究では、オオアリの労働アリを用いて、1匹で飼育する孤立アリと10匹を同じ箱で飼育するグループアリの行動や遺伝子発現などを比較解析した。
その結果、孤立アリは巣内滞在時間が短くなり、窓際で長時間過ごすという行動変容を示した。また、グループアリよりも長い距離を速いスピードで移動した。
それぞれのアリから抽出したRNAを遺伝子発現解析すると、孤立アリで発現が上昇する407個の遺伝子と発現が低下する487個の遺伝子を同定した。これら894個の遺伝子解析から、孤立アリは酸化還元酵素活性を持ち、酸化ストレス応答に関わる遺伝子群の発現が有意に変化していた。さらに、窓際滞在時間が長い孤立アリほど、酸化ストレス応答に関わる遺伝子群の発現量が多かった。
酸化ストレスを生体の部位別に調べたところ、哺乳動物の肝臓や脂肪組織に相当する脂肪体とエノサイト細胞で、活性酸素種の産生が多く、酸化ストレスが上昇した。
活性酸素種の産生量は、壁際滞在時間と有意な相関関係があるものの、移動速度や距離とは相関関係はなかった。つまり、行動量の増加は、活性酸素量の増加に影響を与えていない。
孤立アリに昆虫の酸化ストレスを緩和するメラトニンを投与したところ、その寿命短縮が緩和した。また、メラトニンの投与により、孤立アリの活性酸素種の産生量が低下し、壁際滞在時間はグループアリと同程度まで低下した。
社会的孤立は、病気の進行加速や寿命短縮のリスク因子の1つとされる。今後は、酸化ストレス応答と行動変化の関係性の解明に取り組み、ヒトを含む他生物の社会的孤立ストレス応答の理解につなげる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 食品用ラップのように脳表面に密着できる薄膜電極を開発
東京工業大学は、脳表での電位記録と電気刺激の両立が可能な厚さ約8μmの薄膜硬膜下電極を開発した。複雑な曲面を持つ生体組織表面にも食品用ラップのように密着することが可能だ。 - 解読困難だったヒトゲノムの「暗黒領域」を読み解く
東京大学は、日本人健常者270人のゲノムデータを分析し、ヒトゲノムの中で暗黒領域と呼ばれる領域の1つである縦列反復配列の組成を明らかにした。 - 到着先でカートを自動で切り離せる病院用置き配型搬送ロボットを発売
パナソニック プロダクションエンジニアリングは、病院内で薬剤や検体を自動搬送し、カートを到着場所で切り離す仕組みを備えた、置き配型搬送ロボット「HOSPI Trail」を発売する。 - 介護施設利用者の状態を見守る支援システムの提供を開始
パラマウントベッドは、睡眠データを遠隔で表示する見守り支援システム「眠りCONNECT」の提供を開始する。同時に、システムの中心となる体動検知センサー「眠りSCAN」をモデルチェンジする。 - 生体深部の発光を肉眼で観察できる多色発光イメージング用マウスを開発
理化学研究所は、最新の発光システムを用いて、異なる波長で極めて明るく発光する2種のマウス系統を開発した。生体深部組織の発光イメージングを飛躍的に改善するもので、生体システム理解への貢献が期待される。 - ヤマハ発動機が医療分野で新会社、表面実装機から生まれた抗体プロファイリング
ヤマハ発動機は、血液中の抗体を分析して健康状態を可視化する抗体プロファイリング事業を展開する新会社を設立したと発表した。この抗体プロファイリング事業は、ヤマハ発動機が高シェアを持つ表面実装機事業に源流があるという。