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製造業に広がるメタバース活用、設計/生産/品質管理の事例を見る(前編)デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(2)(5/5 ページ)

本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。

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【活用例(3)】デジタル生産指示

 マスカスタマイゼーションや多品種少量生産など、生産の在り方が複雑化する中で、製造作業者に対する指示をデジタルツインを通じて行う動きが出てきている。セル生産において、設計3D情報に基づく作業指示をARグラスなどで指示する取り組みも進む。

 既に、設計情報に基づき3Dの作業指示を自動生成するシステムが存在する。日立製作所の大みか事業所では「組立ナビゲーション」の仕組みを通じて作業を指示しており、この仕組みは他社にも外販している。

 組立ナビゲーションシステムは、部品の属性情報や組立ノウハウなどを付加した完成品の設計データ(3D CADデータ)から、設計/構造情報を読み取り、3Dの組み立て作業手順書を自動生成するシステムだ。従来2Dモデルの作業手順書は「読み込み作業に習熟するまで10年かかる」といわれており、熟練度で作業の質に差が生まれていた。この組み立て作業手順書を3Dナビゲーションでデジタルツイン化することで、習熟時間を大幅に短縮し、作業の品質を標準化/維持できる。設計部門と製造部門の横断連携が実現できている好例だ。


図13:組立ナビゲーションシステム[クリックして拡大] 出所:日立製作所

【活用例(4)】製品/設備の品質管理とメンテナンス

 製品の品質検査や製品/生産設備などのメンテナンスでも設計時のデジタルツインを活用したオペレーションが重要になる。品質検査やメンテナンスはノウハウの習熟に時間がかかる上、属人的なオペレーションとなり、改ざんなどが起こりやすい構造となっていた。これらを設計3Dデータによる品質確認や、点検/メンテナンス時の対応ガイダンス/結果管理に生かすのだ。

 今までは熟練の作業者が現場に赴き業務を行う必要があったが、熟練作業者が見るポイントやノウハウをARコンテンツ上で手順を表示させることで、非熟練者でも品質を維持した業務ができる。加えて、複雑なオペレーションであっても熟練者が画面上で指示を出すことで遠隔サポート可能となる。

 昨今では品質問題が構造化しており、こうしたヒューマンエラーや改ざんを防止する仕組みが求められているとともに、カーボンニュートラル対応など社会的需要の変化により業務が高度化している。例えば、CO2排気量の検査や、リサイクル材料などで環境負荷の低い部材を活用した際の強度/パフォーマンスなど、確認項目が増加/複雑化しており、3D活用が求められているのだ。下図が欧州自動車メーカーであるボルボ(Volvo)での製品品質管理プロセスにおけるAR活用の例である。


図14:VolvoによるARを活用した製品品質管理[クリックして拡大] 出所:PTC

 特にメンテナンス業務では、自社社員のみならず、ディーラーやメンテナンス会社など幅広い主体に手順やノウハウを移転する必要がある。この対策として、トヨタ自動車はマイクロソフトの「HoloLens 2(ホロレンズ2)」を活用し、車体メンテナンスを3Dを通じて非熟練者でも行える仕組みを構築している。


図15:トヨタ自動車によるマイクロソフトのHololensを活用した製品メンテナンス[クリックして拡大] 出所:PTC

 今回は製造業における「産業メタバース×デジタルツイン」の活用例を見てきた。後半となる次回では、引き続き製造業を対象にしながら、今回扱いきれなかったプロセス産業領域での活用や、NVIDIAの「Omniverse」の広がりを紹介していこう。

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⇒本連載の目次はこちら
⇒連載「インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略」はこちら
⇒連載「加速するデータ共有圏と日本へのインパクト」はこちら

筆者紹介

小宮昌人(こみや まさひと)
JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 プリンシパル/イノベーションストラテジスト
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員

 日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。2022年8月より政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、2022年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。加えて、デザイン思考を活用した事業創出/DX戦略支援に取り組む。

「メタ産業革命」(日経BP)

 専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。

 近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。

  • 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp

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