日本版データ共有圏「ウラノス・エコシステム」とは? 欧州データ包囲網への対抗軸:製造業×IoT キーマンインタビュー(4/4 ページ)
世界中で「GAIA-X」や「Catena-X」などのデータ連携の枠組み作りが進む中、日本にはどのような取り組みが求められるのだろうか。2023年4月に正式に命名された日本版データ共有圏「ウラノス・エコシステム」の概要と狙いについて解説する。
ウラノス・エコシステム構築のための具体的な取り組み
MONOist ウラノス・エコシステム構築のために具体的にはどのような取り組みを進めているのでしょうか。
和泉氏 産学官で協働し「アーキテクチャ設計」や「研究開発と実証」「社会実装や普及」に向けたさまざまな取り組みを進めています。
アーキテクチャ設計においては、産官学の連携によりIPA(DADC)などを主体として研究開発を進めています。報告書やガイドラインなどを成果物として示し、全体として齟齬のないデータ連携が行えるように仕組みづくりを進めていきます。
研究開発や実証では、課題に対して必要となる研究開発を推進するとともに、想定されるユースケースに応じた実証を進めていきます。政府としてはこれらの研究開発を行う企業や大学の支援を行うという立ち位置となります。開発物はデータ連携のためのインタフェースなどが多くなると思いますが、出来上がった成果物については、技術仕様を公開するとともに、OSS(Open Source Software)として、GitHubなどで公開していくことを考えています。
国内社会実装に向けた取り組みとしては「デジタルライフライン全国総合整備計画」により推進していきます。「実証から実装へ」「点から線や面へ」の移行を加速化するために、ハード、ソフト、ルールといったデジタルライフラインを整備する約10年間の実装計画を策定し、重複を排除した集中的な投資を進めていく計画としています。
ユースケースをベースに成果を水平、垂直に展開
MONOist 各産業で具体的な課題をターゲットとして成果をもたらすことを重視しているという話でしたが、全体としての取り組みはとても壮大なように見えます。
和泉氏 全体像として最適化を図るための仕組みは必要で、それが「アーキテクチャ設計」としての取り組みにつながっているわけですが、重要なのはそもそもの考え方としてお話したように、個社や個別の業界では解決しにくい協調領域を取りまとめ、インフラとして整備することにあります。そのため、解決したい課題と目的がポイントとなります。
その意味では、「研究開発や実証」として位置付けているユースケースとその実証が重要で、それを積み上げていくことで、より幅広い範囲でデータ活用が進んでいくようになると考えています。実証で示されたユースケースをさまざまな形で拡張できるようにする技術的な枠組みが「アーキテクチャ設計」で、それをより広く社会に広げていくための仕掛け作りが「社会実装や普及」の取り組みだと位置付けています。
例えば、ウラノス・エコシステムで最初からターゲットとしていた、欧州バッテリーパスポート対応のためのサプライチェーンデータ連携基盤では、蓄電池をまず対象としていますが、これを先行ユースケースとして実証を行います。これで成果が得られたら、蓄電池以外の部品や、自動車以外の業界とまたがる領域などについて議論を進めるというような形で、具体的な成果や緊急性などを勘案しながら広げていくことを考えています。
国家間の規制も含めた競争環境はよりシビアになってきていると感じています。その中で個社や業界単独で戦うことが難しかったり非効率であったりするところが多く出てきています。そういう領域をインフラとしてより早く巻き取り、企業や業界が競争領域に集中できる環境を作ることが重要だと考えています。技術論ではなく公益性を考えて政策実装をスピード感を持って行っていくことが、強い産業構造の育成につながると信じています。
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