Society 5.0がもたらす産業の変革とは何か:経済財政白書2018を読み解く(前編)(1/3 ページ)
内閣府はこのほど平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。この経済財政白書の第3章「Society 5.0に向けた行動変化」を2回に分けてまとめた。前編はSociety 5.0により可能となる産業や社会生活について紹介する。
内閣府はこのほど平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。今回の白書は、副題を「今、 Society 5.0の経済へ」とし、第4次産業革命による「Society 5.0」の実現を明確に目標として示したことが特徴である。この経済財政白書の第3章「Society5.0に向けた行動変化」を2回に分けてまとめた。前編はSociety 5.0により可能となる産業や社会生活について紹介する。
Society 5.0とは何か
国内景気は緩やかに回復しており、経済の好循環は着実に進展している。しかし、今後の少子高齢化や労働人口減少などの課題を考慮すると、中長期的な経済活力を持続するためには、第4次産業革命と呼ばれるイノベーションの動きを加速し、社会実装を進め、その成果を経済成長や国民生活の豊かさにつなげる「Society 5.0」の実現が必要になる。
Society 5.0とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、新たな社会の実現に向けた取り組みである。目指す姿は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」で、「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会のさまざまなニーズにきめこまやかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といったさまざまな違いを乗り越え、生き生きと快適に暮らすことのできる社会」を目指すものだ。
第4次産業革命による技術革新は、人間の能力を飛躍的に拡張する技術である。具体的には、頭脳としてのAI(人工知能)、筋肉としてのロボット、神経としてのIoT(モノのインターネット)などである。豊富なリアルデータを活用して、従来の大量生産、大量消費型のサービス提供ではない、個別化された製品やサービスの提供を実現する。個々のニーズに応え、さまざまな社会課題を解決し、付加価値を生み出すことを目指す。
Society 5.0の進み方
こうした動きは社会全体の構造に関係する大きなものだが、どのように進んでいくのだろうか。白書では、まずAIやロボットによって、さまざまな分野で自動化が進むと見込む。例えば、自動車の運転や物流で自動化が実現できれば、交通事故の低減や地域における移動弱者の負担軽減につなげられる。また、人手不足に直面する物流現場の効率化も可能となり、過度な業務負担も大幅に軽減される。
また、自動翻訳によるコミュニケーションの進化は、国際的な知見を獲得したり、日本の知見を海外に発信したりする際に、これまで大きなハードルであった言葉の壁をバイパスすることができる可能性を秘めている。このようにAIやロボットがもたらす自動化、効率化、代替力によって、人間の活動の重点は、5感をフルに活用した頭脳労働や、チームワークの下で互いに知恵を出し合うコミュニケーションなどにシフトすることになる。
20世紀までの経済活動の代表的な基盤は、安定的な「エネルギー」と「ファイナンス」の供給であった。天然資源の乏しい日本にとって、エネルギー供給は日本経済の潜在的な「弱み」である。金融面でも、日本は世界的な競争から後れを取っている現状だ。こうした「弱み」を、ブロックチェーン技術などを活用した集中から分散型によるセキュリティの確保や、新しい決済手法、スマートエネルギーマネジメントなど、最新の技術革新を取り入れることにより、国際競争で十分互角に戦える「強み」に変えられる可能性があると白書では訴えている。
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