Society 5.0がもたらす産業の変革とは何か:経済財政白書2018を読み解く(前編)(2/3 ページ)
内閣府はこのほど平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。この経済財政白書の第3章「Society 5.0に向けた行動変化」を2回に分けてまとめた。前編はSociety 5.0により可能となる産業や社会生活について紹介する。
第4次産業革命により変わるバリューチェーン
第4次産業革命の進展は、日本の経済構造に大きな影響を与える。その1つとしてバリューチェーンの構造変化がある。第4次産業革命により生み出される新たな商品やサービスは従来のバリューチェーンとは大きく異なるプロセスで生産、流通される。例えば、従来の典型的なバリューチェーンでは、素材購入、製造、卸売、配送、小売りといった各段階を経て消費者に商品が渡ることが一般的だった。消費者はこうしたバリューチェーンの中で、最終段階の小売りについてしか企業を選択する余地がなかった。
これに対し、電子コンテンツなどのサービスを消費者が購入する場合には、まずは、スマートフォン、タブレット、PCといったハードの端末機器を選択し、それら端末において契約している通信ネットワークを用い、端末にインストールされたOSおよびその上で作動するアプリを用いて、代金決済の可能なコンテンツストアにアクセスし、電子コンテンツを購入するというプロセスになる。
eコマースやイノベーションの進展とともに、そうした技術や付随するデータを活用し、企業や消費者を相互に連結する、「オンラインプラットフォーム」の役割が重要となっている。オンラインプラットフォームにはさまざまなものがあり、一般にはインターネットでの販売および取引市場、検索エンジン、SNSなど広範なインターネット上の取引を仲介する場やシステムを指す。
プラットフォームビジネスに弱さを抱える日本
オンラインプラットフォームを有する企業の規模をみるために、2018年3月末時点の主要企業の時価総額を国ごとに比較すると、プラットフォームビジネスの先駆者である米国では、主要4社の合計で2.7兆ドル(約287兆円)と圧倒的な規模を有している。中国では外国企業のアクセスを制限していることもあり、自国内の企業が大規模な国内需要を取り込んでおり、主要2社で9千億ドル(約96兆円)の規模がある。一方、日本は、両国と比べて、先行者利益の獲得ができておらず、国内主要企業の株価時価総額はわずか4兆円程度にとどまっており、両国に比べて大きく出遅れている様子がうかがえる。
オンラインプラットフォームの発展と普及に伴って、オンラインでの商取引(eコマース)が急速に拡大している。主要な国について、B2Cのeコマースの市場規模をみると、近年はとりわけ中国での規模の拡大が著しく、2017年におけるB2Cのeコマースの規模では、中国が1兆1千億ドル(約125兆円)と最も大きくなっている。世界第2位の市場であるアメリカの5千億ドル(約50兆円)に対しても大きく差がある状況だ。
一方で、日本のeコマース市場規模は、英国やドイツと同程度の規模にとどまっている。ただし、近年では、日本のeコマース市場は模が拡大してきており、2017年における市場規模は全体で16.5兆円となった。
また、1年間にインターネット販売を利用した人の割合を国際比較すると、英国、デンマーク、ドイツなど欧州諸国で利用者割合が高い傾向がみられるが、日本の利用率については、諸外国やOECD加盟国の平均と比べてやや低い。こうしたことを踏まえると、日本では、今後、eコマースの利用率が上昇し、市場が拡大する余地は大きいものと考えられる。
オンラインプラットフォームを利用して行われるビジネスとして、eコマースの他には、シェアリングやマッチングといったビジネスも拡大している。シェアリングエコノミー産業の市場規模は、現状ではレンタル産業の市場規模の1割未満である150億ドル(約1兆5千億円)にとどまっているが、今後10年程度の間に大幅な拡大が予想される。P2P型貸し出しやクラウドファンディング、オンラインでの派遣やクラウドソーシング、民泊などの宿泊サービス、カーシェアリングなど、多岐に亘るサービスで拡大が見込まれている。
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