Society 5.0がもたらす産業の変革とは何か:経済財政白書2018を読み解く(前編)(3/3 ページ)
内閣府はこのほど平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。この経済財政白書の第3章「Society 5.0に向けた行動変化」を2回に分けてまとめた。前編はSociety 5.0により可能となる産業や社会生活について紹介する。
第4次産業革命における産業変化と国際競争
日本では、これまでも生産や流通の現場で、さまざまなデータを基に生産・流通の管理が行われ、また、生産現場でのロボットなどの活用も広く行われてきた。しかし、第4次産業革命により、センサーなどを通じた設備の稼働状況の把握や、インターネットの閲覧履歴を利用した詳細な顧客情報などが入手可能となり、これまでデータ化されることのなかった情報がビッグデータとして集積されるようになる。そうした情報を解析することで新たなサービスが生み出され始めている。
これらとともに、工場の自動化率の引上げ、単純事務の機械化、農作物育成や建設工程管理の適正化、物流の効率化、飲食、宿泊、介護サービスなどの一部機械化などが可能になっている。
こうした新技術の活用状況について、国際的な動向を確認してみよう。日本はロボット技術においては国際的にも比較優位性を持つと考えられている。実際に現状では高シェアを握るわけだが、産業用ロボットの市場規模について調査をみると、世界の市場規模は2016年の114億ドル(約1.2兆円)から2020年には233億ドルまで急拡大する見込みである。日本についても、2016年の17億ドル(約0.2兆円)から2020年には30億ドルに拡大することが予測されており、市場が急拡大する中で、既存のビジネスモデルだけでシェアを確保できるのかという点について課題が存在する。
一方で、IoTの導入状況と今後の導入意向について国際比較すると、導入状況については、米国は40%を超えているのに対し、日本は20%程度となっており「遅れている」という傾向が見える。さらに、今後の導入意向については、米国、ドイツともに70%〜80%程度となる一方で、日本は40%程度にとどまっており、日本企業の取り組みは消極的である。
この背景について、日本の企業では、他国と比較して、「「収集されたデータの利活用方法の欠如」「費用対効果が不明瞭」と「データを取り扱う人材の不足」を懸念していると答える企業の割合の高い。これらの課題を解決していくことが、利用拡大につながる。
モビリティ変革における自動車産業の変化
自動車産業は、単独の産業としては最も大きな市場規模を持ち、日本が比較優位を持つ産業の代表例である。しかし最近では、電気自動車(EV)をはじめとする環境対応車の普及に加え、第4次産業革命の進展によって、テレマティクスサービス(車両の運行状況や位置情報などをインターネットでつなぐことで、車両の保守管理、燃費削減、運転支援、運転関連情報などのサービスを提供するもの)や無人自動走行に向けた取り組みが広がりつつある。
こうした構造変化は、これまでのバリューチェーンを大きく変え、日本の競争力にも影響が及ぶ可能性があることから、その動向が注目されている。具体的には、電気自動車の普及は、これまでのように蓄積されたノウハウや工作技術が必要とされてきた内燃機関や機械系の制御部品へのニーズが減少する。より汎用性の高い電子モーターや電子系制御部品に置き換わることで、自動車のモジュール化が進む見込みだ。
さらに、テレマティクスの普及や無人自動走行化に向けた技術開発が進む過程で、これまでハードに一体化された車両単位から、車両制御OS、車載情報端末、通信などが新たなレイヤーとして分離する可能性が高い。
実際に、車両制御OS、車載情報端末、通信などの新たなレイヤーには、自動車関連企業だけでなく、IT関連企業など異業種が参入しつつある状況にある。今後、自動車のEV化、スマート化が進むことが見込まれる中で、これまで熟練の技術や生産効率性などに依存してきた既存の自動車メーカーの競争優位は、ソフトに優位性を持つ上位レイヤーを担う企業との組み合せによっても大きく影響を受ける可能性が高い。
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