現場の負担を削りモノづくりの魅力を高める、中村留が複合加工機で目指すもの:FAインタビュー(3/3 ページ)
1台の機械でフライスや旋削、ギア加工などができる複合加工機による工程集約を掲げる中村留精密工業。2022年に同社 代表取締役社長に就任した中村匠吾氏に新工場建設の狙い、今後の展望などを聞いた。
負担を削ることでモノづくりの魅力を体現できる存在に
MONOist 工作機械として鍵を握る機械、ソフトウェア、自動化における中村留の強みとは。
中村氏 これらはまさにわれわれが注力している分野だ。この3つの領域が高い次元で融合しないといけない。
機械の加工能力はもちろん大事だ。複合加工機は複雑な構造になっていて、他のシンプルな機械に比べてさまざまなユニットが付くため、加工能力を担保するのが難しい。中村留では、先に構造やスペックを決めるのではなく、どんな加工をしたいのかを明確にしてから構造を決める。“このワークに、こんな条件で、こういった加工がしたい”に対して、そのためにはどういった構造が必要かを議論する。多品種少量生産になって材料や加工条件も難しくなっているが、そうやって加工を重視して作ったわれわれの機械は削れない素材が非常に少ない。
加工能力や剛性の高さなどが融合して実現している1つがギア加工だ。複合加工機は、旋削とミーリングを複合化する意味で複合加工機といわれることが多いが、ギア加工への関心も高まっており、このギア加工から導入いただく機会も増えている。ギア加工は工具の回転と主軸の回転を同期して制御する必要がある上、切削負荷が非常に高いため、高い剛性と加工能力を持つ機械じゃないと安定して削れない。自社開発のソフトウェアで、対話機能などを使って簡単にプログラミンできるようになっている。
ソフトウェアは毎年、2、3つの新しいソフトウェアを出している。他社と比べても早い方ではないか。対外的なソフトウェアに関しては社内に20人程の専属チームがあり、加工のメンバーも「こんなものがあったらもっと現場の負担が削れる」をリスト化するなど、常に皆で議論しながら開発を進めている。
ソフトウェアのチームも非常に優秀で、オペレーターが手の届かないような“ここが難しいな”という部分にフィットするソフトを作っている。
代表的なのが「3D Smart Pro AI」で、3D図面を読み込むだけで、自動で加工プログラムをできる。5時間かかっていたプログラムが、たった30分ほどでできてしまった事例もあるほど効果の大きいソフトウェアだ。これも複合加工機に必要なものだと思い、標準で付けている。オプションにすると要るかどうかを判断されてしまう。われわれが現場に必要だと思うものはセットで提供している。
WY-100Vの速さの鍵の1つになっているのもソフトウェアだ。ソフトウェアによって使いやすくするだけでなく、ソフトウェアで機械の動き自体を変える取り組みをしている。
2023年4月からは、既存の納入機でもPCのOSのようにソフトウェアを無償でアップデートできる「NT Update」というサービスを始めた。われわれは現場の負担を削ることが目的であり、機械の販売はその手段の1つだ。古くてもユーザーの現場にある機械の性能がよくなって、現場の負担が軽くなり、オペレーターの作業が楽なることが大事だ。
われわれは自分たちで自動化装置を作っている。「ガントリーローダー」「コンパクトローダー」「Flex Arm(フレックスアーム)」「Plug One」という自動化製品があるが、自分たちでトータルコーディネートして納品できる。受注後に自動化の最終設計までし、社内で試験を行い、現場で再現して稼働できるので立ち上げが非常に早い。何かあったとしても、われわれの方で全て答えられるようになっている。
MONOist 社長就任後の1年を振り返っての印象を教えてください。
中村氏 この1年は受注が先行する形で、部品がなかなか入って来ない中、みんなで協力しながら機械を作ってきた。
想像以上の力を見せてくれたチームがたくさんある。全員の頑張りがあって、2022年度は本社工場では年間1000台以上を出荷することができた。
皆が「やるぞ」という風に固まると、ギアが入って全員で最後まで成し遂げることができるのが中村留の強みだ。そのギアが入る回数を増やしていく。MAGI完成を機にスタートする新しい生産方式の導入も、全部の部署が関わる大きな変革の1つだ。それらを通して会社を1つのチームにしたい。皆がそれぞれ協力し合い、1つのことを成し遂げる、1台の機械を作る。そんな“チーム”にしていきたい。
MONOist 今後の展望を教えてください。
中村氏 中村留は現場の負担を削るチームになるべきだ。そのためには、今、複合加工機が普及していない領域に広めなければならない。ユーザーのニーズにしっかりと刺さる新しい製品をどんどん開発する。
ユーザーの現場の負担が本当はどこにあるのか、ユーザーからは教えてくれない。皆で負担はどこにあるのかを考え、ユーザーと語らいながら、仮説を立てて削っていく。ユーザーのことを理解したい、同じ気持ちを味わいたい、という思いで私も機械に触る機会を設けて、技能の向上に努めている。
日本の生産年齢人口はどんどん少なくなっていく。製造業離れの影響もある。ただ、製造業に携わっているわれわれが楽しそうにしていないと、新しい人は入って来なくなる。自分たちがモノづくりの魅力を最大限感じることができていなければ、その魅力も伝わらない。
工作機械は世の中に欠かせない、とても面白いものだ。皆がそれを体現できるようにならないといけない。私の恩師は「“知らない”というのは“ない”のと同じだ」と言っていた。素晴らしい技術、製品を生み出しても、それが伝わらなければ、世の中に価値を感じてもらえない。縁の下の力持ちではあるが、日本の製造業の素晴らしさが世界に伝わり、産業として魅力が高まっていくようにわれわれも発信していきたい。
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